(社説)10代の自由研究 驚く成果生み出すもの

社説

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 超絶的、涙が出るほど感動、想像以上に精緻(せいち)――。こんな言葉で、本職の研究者が称賛する小中高生の研究がある。

 埼玉県の小学6年柴田亮(りょう)さんは、夜行性のカブトムシが昼間も庭の木にいるのを不思議に思い、自由研究のテーマにした。

 東南アジア原産のシマトネリコ。この木には昼もカブトムシが集まると書いた本を図書館で見つけ、著者の山口大講師小島渉さんに「個体ごとの記録を取れば面白い」と助言された。

 背中に印をつけ、ビデオ撮影などで家族の協力も得た結果、カブトムシは夜に集まり、昼まで残ることを突き止めた。外来植物との出会いが新しい習性を引き起こした可能性があるという。小島さんと連名の論文が米国の学術誌に載った。

 兵庫県明石市の中学2年谷和磨(かずま)さんはペルセウス座流星群の大出現の観察記録をまとめた。

 夜明け前に多く現れるので市の天文科学館に相談すると、ハワイからのライブ映像なら無理のない時間帯に観測できると教えられた。そして、ピークと予測された日ではなく、翌日が最も多かったことに気づき、推定できる原因を探った。専門的な見解とも重なる考察で、内容を知った研究者を驚かせた。

 熊本県立天草拓心高校マリン校舎の科学部は、絶滅の恐れがある貝のカヤノミカニモリの研究に継続的に取り組む。人工的な産卵や成長を記録するのは不可能とされてきたが、卵から幼生を経て、若い貝にまで育てることに成功した。文献には肉食とあったが、藻類も食べるという未知の生態もわかった。

 いずれも、素朴な好奇心と行動、地道な観察と記録が結果につながった。部活動の場合、先輩の経験やデータの蓄積を生かすこともできる。成果を上げてポストや予算を獲得する重圧もなく、失敗を恐れずに自由な着想で挑戦できるのは、専門の研究者にはない「強み」だ。

 理科教育に長年携わる宮下敦成蹊大教授は、小中高生が本格的な研究をするのは難しいというのは大人の思い込みだと指摘する。子どもたちにはアイデアも粘り強さもある。本職が見落としているテーマも多く、知識や経験、先端機器がなくても、プロと同等の成果が出せる可能性は十分にあるという。

 自由な研究の効能は、本人の理解力や問題解決能力の向上にとどまらない。自然観察が地域の生態系の保護につながる場合もあるし、文系理系を問わず、相談を受けた専門家には、新鮮な刺激を受け、次代の担い手を導くことに手応えを感じる機会にもなるだろう。

 疑問を突き止めようとする若者たちの活動を見守りたい。

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