(社説)教員の働き方 司法の警告受け止めよ

社説

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 判決を教員の働き方の改革にどうつなげるか。国、自治体、現場の管理職はもちろん、保護者も問題意識を共有し、環境の整備に取り組む必要がある。

 勤務時間に応じた残業代が支払われないのは違法だとして、埼玉県の公立小教員が起こした裁判の判決だ。さいたま地裁は教員側の敗訴を言い渡したが、判決理由の中で現行制度に疑義を呈し、注目を集めた。

 教員の仕事は多様で本人の自主性に委ねられる部分も多い。このため国は、勤務時間の正確な把握は難しいとして、基本的に残業代は出さず、月給の4%分を一律上乗せして支給することにしている。

 地裁は、1971年に制定されたこの教職員給与特別措置法に基づいて請求を棄却。授業の空き時間をうまく使うなどすれば、種々の業務をこなすことはできたとも判断した。

 指導にかかる時間を分刻みで推定して機械的に合算したり、原告が自分の判断でやったことで労働ではないとする範囲を広く認定したりするなど、疑問は少なくない。一方で判決は「給特法はもはや教育現場の実情に適合していない」と指摘し、勤務時間の管理や給与体系の見直しを「切に望む」と述べた。

 日本の教員の仕事時間は国際的に見ても長い。文部科学省の16年の調査では、小学校教員の3割、中学校の6割が「過労死ライン」と言われる月80時間以上の残業をしていた。

 授業だけでなく、教材や各種書類の作成、部活動の指導、保護者対応など、やるべきことは多岐にわたる。給特法は残業が月平均8時間だった時代に作られたもので、現状に合わないとの指摘は以前からあった。

 国も19年に給特法を一部改正し、繁忙期に集中して働く代わりに、夏休み期間中などに休日をまとめ取りする変形労働時間制を導入。残業の上限を月45時間などとする指針もつくった。だが抜本解決は遠い。

 お金の問題もさることながら、過重労働は働き手の心身をむしばむ。教員が意欲と余裕をもって教壇に立てなければ、子どもの教育にも悪影響が出る。厳しい職場であることが広く知られ、教職をめざす若者が減る深刻な事態も生じている。

 社説で繰り返し主張しているように、漫然と続く不要な業務の整理・削減、IT機器の利活用、外部人材の活用などに一層力を入れる必要がある。

 文科省は来年度、教員の勤務実態調査を行う。先の改革の成果を確認し、場合によっては給特法のさらなる改定と財源確保に向けて、政府内での調整作業を進めるべきだ。司法の警告に真摯(しんし)に向き合わねばならない。

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