(社説)日銀と気候 果たすべき役割 熟考を

社説

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 日本銀行気候変動対応に金融政策を用いる方針を打ち出した。温暖化対策は喫緊の課題だが、中央銀行が乗り出すべき政策なのか、効果と副作用はどの程度あるのか、見極めなければならない。当面は試行の域にとどめ、検討を重ねるべきだ。

 今月の金融政策決定会合で決めた「骨子素案」によれば、民間金融機関が「気候変動対応に資するための取り組み」とする投融資について、金利ゼロ%で資金を供給する。一定の情報開示を条件にし、対象には再生可能エネルギーなど「グリーン」な事業向けだけでなく、二酸化炭素を多く出す企業の排出削減に向けた取り組みなどを支える投融資も含めるという。

 社会・経済の脱炭素化を急ぐには、制度や政策でも従来にない工夫が必要になる。日銀がそうした問題意識を持ち、可能性を探ることに異論はない。

 日銀は通貨の発行という強大な権限と、政府からの一定の独立性を持つ。ただし、あくまで「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」(日銀法)ためだ。

 日銀は「気候変動問題は中長期的に、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼしうる」と述べ、それへの対応は「長い目でみたマクロ経済の安定に資する」と主張する。一般論としてはその通りだろう。国際的にも同様の議論があり、欧州の中央銀行も前向きの姿勢を打ち出している。

 とはいえ、気候変動による影響の度合いや、それを金融政策で左右できる範囲について、現時点での知見は乏しい。望ましい政策を設計し、結果を検証したうえで、必要に応じて修正できるのか、熟慮すべきだ。

 現在は、2%物価上昇目標の達成を掲げて大規模な資金供給を続けており、その中身を「グリーン」にする範囲ならば、大きな問題はないかもしれない。だが、将来にわたって、物価や金融システムの安定という本務と気候変動対応の資金供給が整合的とは限らない。黒田東彦総裁は、従来の使命を優先する姿勢を示しているが、より明確に整理する必要がある。

 中央銀行が特定の投融資に肩入れすることの是非は、中立性の観点からも問題になりうる。日銀もその点に留意し、あくまで民間金融機関の自主的判断の支援との立場を強調している。しかし資金供給の対象とする以上は、一定の線引きがどこかで求められる。

 こうした点を踏まえれば、本来は、国会での議論を経る財政や政策金融に委ねるべき任務のはずだ。そこに中央銀行がどこまで関与すべきなのか、地に足のついた議論を深めてほしい。

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