コロナ対策の相次ぐ方針撤回は、政府への信頼を大きく損なうものだ。担当大臣である西村康稔経済再生相が厳しく批判されるべきなのは当然だが、責任が政府全体にあることは明らかである。事前に説明を受けていた菅首相も、その責めから逃れることはできない。

 酒類の卸業者らに対し、酒の提供を続ける飲食店との取引を停止するよう求めた依頼を、政府が取り消した。金融機関に働きかけを求める方針を撤回した後も続けていたが、業界団体の抗議や自民党内の反対意見を受け、白紙に追い込まれた。

 コロナ対策の特別措置法にも、緊急事態宣言の基本的対処方針にも書かれていない、法的根拠のない要請である。商取引の基盤である事業者間の信頼関係を損なう恐れもあった。撤回は当然だが、政府はその理由を「迷惑をかけた」「混乱を招いた」としか言わない。問題の本質を見据えた反省なしでは、同じ過ちが繰り返されかねない。

 一連の方針については、東京都に4度目の緊急事態宣言を決める前日、首相と関係閣僚との会合の中で、事務方から説明があったことが明らかになっている。首相はきのう記者団に対し、「要請の具体的な内容について議論したことはない」と、責任を棚上げするような発言をしたが、その場で誰も異論を示さなかったのなら、全員で了承したも同然だ。

 宣言の期間が長引くなか、酒類の提供に踏み切る飲食店が出ており、自粛に応じた店との公平性をどう確保するかが課題であることは確かだ。しかし、政府がすべきは、十分で迅速な協力金の支給や粘り強い説得であって、民間を巻き込んだ強権的な手法に頼ることではない。業界や関係者の苦境に思いが及んでいなかったとしたら、政治指導者に求められる感度や想像力の著しい欠如というほかない。

 金融機関や酒類販売事業者に対する働きかけの具体的な内容は、内閣官房のコロナ対策室が金融庁、経産省、財務省といった関係省庁と調整のうえでまとめたという。その間、今回の措置がはらむ問題点を提起し、再考する機会はなかったのか。政府全体として猛省が必要で、西村氏ひとりに責任を押し付けてすむ問題ではない。

 政府に疑問をただし、説明責任を果たさせる場として、国会の役割は大きい。菅政権は先月、会期延長をせず、さっさと通常国会を閉じてしまった。東京で感染再拡大が顕著となり、五輪の開幕が目前に迫る今こそ、コロナ対策に与野党の知恵を結集し、臨機応変な対応を可能とするよう、臨時国会の召集を決断すべきだ。