(社説)NHK経営委 視聴者への背信明らか

社説

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 NHK経営委員会が隠し続けてきた3年前の会合の記録が、ようやく全面開示された。明らかになったのは、視聴者の代表としてNHKの業務執行をチェックすべき経営委が、逆に視聴者の利益に反することを行い、かつ何が問題なのか理解していないという由々しき実態だ。

 かんぽ生命の不正販売に迫った「クローズアップ現代+」をめぐり、日本郵政グループ3社の社長(いずれも後に不正の責任をとって辞任)が抗議してきたのが始まりだった。

 記録には「取材も含めて極めて稚拙」「(郵政を)イメージダウンさせるようなことを番組でやるのは(おかしい)」といった発言が随所にあり、経営委が関与して番組制作や取材方法の基準をつくるべきだとする意見も残されている。

 経営委は、郵政側が納得していないのはNHKのガバナンスに問題があるからだとして、当時、現場のトップだった上田良一会長を厳重注意した。

 放送法は経営委員が個別の番組の編集に干渉することを禁じている。経営委は、ガバナンスの問題を議論する前提として番組について「意見や感想を述べ合った」だけで「具体的な制作手法を指示したものではない」とする見解を公表し、介入との批判は当たらないと主張する。

 単なる言い訳だ。発言の多くは、法の趣旨も、報道機関としてのNHKの役割も理解せず、郵政の側に立って番組に難癖をつけているとしか見えない。

 報道現場と取材相手が緊張関係にあるなか、相手が異を唱えているからといって、経営委が会長を注意して「必要な措置」をとるよう指示すればどうなるか。当該番組にとどまらず局全体に萎縮を招いて、視聴者に真実を伝えることは難しくなる。

 そもそもNHKの郵政への対応に関しては、放送法に基づいて設けられている監査委員会が調査し、「瑕疵(かし)はなかった」との結論を出している。経営委の行いはこれとも整合しない。総務省とも関係の深い郵政グループに迎合し、ガバナンスの名を借りて番組に干渉したというほかなく、経営委のガバナンスこそ問われねばならない。

 議論を主導した一人が現委員長の森下俊三氏であることが、記録によって裏づけられた。社説はかねて同氏は経営委員の資格を欠くと主張してきたが、今回の開示で決定的となった。

 2月に森下氏を委員長含みで経営委員に再任した政府の責任は重い。放送法は、委員に義務違反などがあれば国会同意を得て首相が罷免(ひめん)できると定める。氏が自ら職を辞さないのであれば、首相は自らの不明を恥じ、この伝家の宝刀を抜くべきだ。

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