(社説)最低法人税率 歴史的成果へ正念場だ

社説

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 多国籍企業の「課税逃れ」を防ぐ新たな国際ルールについて、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が先週末、大枠で合意した。目玉は、各国の法人税に共通の最低税率を導入することだ。国家主権の根幹である税制に統一の決まりを設け、法人税率の引き下げ競争に終止符を打てれば、歴史的な成果と言える。

 ただ、今回は制度の枠組みこそ決めたものの、税率など肝心な論点で結論を先送りした。巨大IT企業などへのデジタル課税についても、米グーグルなどを中心とする100社程度を課税対象にすることは固まったが、税収を各国にどう配分するかは決めきれなかった。

 足元で国際協調の機運が高まっているのは、コロナ禍で多くの国が財政難に陥っているからだ。この好機を逃してはならない。10月に先送りした最終合意に向け、日本を含む各国は粘り強く交渉を続けて欲しい。

 新ルールに合意すれば、低税率国にある子会社の利益に対し、親会社のある国が最低税率との差を課税できるようになり、低税率で企業を誘致することは難しくなる。

 しかしこの最低税率について、今回は「15%以上」とすることに合意するにとどまった。高い税率を求める米国やフランスなどと、低税率や税制優遇策を続けたいアイルランドや中国などの間で、溝は埋まっていない。心配なのは、合意形成を優先するあまり、新ルールが骨抜きにされかねない点だ。

 大枠合意では「妥協の産物」(財務省幹部)として、税率を計算する際に、分母となる利益から建物など有形資産の簿価と支払い給与の「5%以上」を除外する仕組みが導入された。この割合が大きいほど企業の利益が小さくなり、従来通りの税金しか払っていなくても計算上の税率は高くなる。それでは多くの低税率国が実態は変わらぬまま、最低法人税率の適用を免れてしまう。

 今後の交渉では最低税率の水準とともに、所得から除外する割合が焦点になるとみられる。

 新ルールづくりの事務局となっている経済協力開発機構OECD)での議論には、約140の国・地域が参加してきた。できるだけ多くの賛同を得ることが望ましいが、一定規模の国・地域が足並みをそろえれば、実効性は確保できる。

 歴史的な制度変更になるだけに、新ルールがいったん決まれば、当面は見直せないだろう。合意を急ぐ必要はあるが、いま安易に妥協すれば後々まで禍根を残しかねない。交渉関係者はそのことに十分留意して、結論を導く必要がある。

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