(社説)日ロ関係 ご都合主義は通らない

社説

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 相手によって言うことが変わる。一貫した理念を示さず、場当たり的な友好の演出を繰り返す。そんな外交では信用されず、関係進展の道も開けまい。

 茂木敏充外相が今月、バルト3国を訪問した。ソ連から独立を回復した後、北大西洋条約機構欧州連合に加盟し、ロシアと厳しく向き合う国々だ。

 茂木氏は記者会見で、バルト3国とロシアの関係は、日本と中国の関係に「極めて類似している」との持論を述べた。

 中国の強引な海洋進出や香港などの問題に触れ、日本が中国に抱く懸念は、ロシアと対峙(たいじ)するバルト3国にとっても、ひとごとではないと指摘。「強い共感が示された」と語った。

 茂木氏が言うように、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」への理解が進んだとすれば、成果だろう。

 だが中ロの類似性を言うのならば、日本もバルト3国が抱えるロシアへの懸念に共感しなければ筋が通らない。ロシアによるクリミア併合や国内の反政権派弾圧も、日本にとって「ひとごと」ではないはずだ。

 安倍前首相は、こうしたロシアの問題に目をつむり、プーチン大統領へのすり寄りに腐心した。G7に同調してロシアに制裁を科す一方で、ロシアとの経済協力を担う閣僚ポストを新設した。二枚舌ともみられる矛盾をさらす外交だった。

 安倍氏には、北方領土問題を解決して日ロ平和条約を結ぶという眼目があった。ロシアを中国側に追いやらないためにも、関係改善が必要だったとの思惑も語っている。

 だが、ご都合主義的なアプローチは見透かされ、領土交渉は頓挫した。米国に対抗する中ロの連携も深まる一方だ。ロシアから日米安保条約を批判されても、きっぱりと反論できないような不健全な日ロ関係を招いた責任は重い。

 ロシアは今月、ソ連によるバルト3国の併合、さらには第2次大戦のきっかけとなったナチスドイツとの密約への批判を封じる狙いの法律をつくった。

 ソ連の独裁者スターリンの行為を神聖視する動きは、ソ連による北方領土占領を正当化するプーチン氏の主張と軌を一にしており、それこそ日本にとってひとごととは言えぬ内容だ。

 しかし菅首相は安倍氏の対ロ外交の継承をうたい、対ロ協力担当相も置いたままだ。

 前政権の失敗を漫然と続けることは許されない。これまでの日ロ交渉を厳格に見直す時だ。ロシアの近隣国への振る舞いや人権状況への懸念を率直に語らなければ、日本がいくら「価値観外交」を掲げても、国際社会での説得力を持ちえない。

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