(社説)河井夫妻事件 受領者不問とはいかぬ

社説

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 民主主義の土台である選挙をめぐり、多額の現金がやりとりされた深刻で悪質な事件だ。受け取った側を一律に「不問」で済ますわけにはいかない。

 2年前の参院選で、元法相の河井克行被告と妻の案里前参院議員から現金を受領したとして告発されていた広島県内の地方議員ら100人について、東京地検は全員を不起訴とした。

 検察は、議員らは自ら金銭を要求しておらず、その金を使って有権者をさらに買収する行為もしていないなどの事情を挙げ、「一部を起訴、一部を不起訴と一定の基準で選別するのは困難」と説明した。

 だが被買収も明らかな違法行為であり、過去に多くの人が罪に問われてきた。今回の処分はそれらとの均衡を著しく欠き、検察が掲げる「厳正公平」にもとると言わざるを得ない。

 夫妻の犯罪を裏づける証言を得るため、議員らの刑事責任を追及しない約束をしたのではないか。克行被告の弁護側はかねてそう主張し、社説も、被買収側を起訴するかしないかを決めぬまま公判に臨んだ検察の対応に、疑義を呈してきた。

 起訴されて有罪が確定すれば公民権停止―失職にもつながる。告発した団体は検察審査会に申し立てる構えだ。一般市民から選ばれる審査員が、証拠に基づき、検察の言い分をどう評価するか、注視したい。

 刑事責任とともに、このまま「不問」に付すわけにはいかないのは政治的・道義的責任だ。

 事件発覚後に辞職した者もいるが、一方で今も議員の座にとどまる者が30人以上おり、不起訴処分を受けて「(受領は)もらい事故」「辞めずに引き続き政治責任を果たす」といった発言が聞こえてくる。政治責任の何たるかを理解せず、有権者の意識との乖離(かいり)は明らかだ。

 広島県議は13人が金を受け取ったと裁判で認定されている。5月に県議会の政治倫理審査会が開かれたが、受領者本人からの聞き取りは全員あわせても1時間ほどで終了した。踏み込んだ発言は一切なく、辞意を表明した者もいなかった。

 同じく13人が受領した広島市議会でも、3月に説明を求める場を設けた後、目立った動きはない。それどころか、「もらった金は寄付した」という公判での証言がうそとわかり、偽証などの疑いで書類送検された市議(その後不起訴)に対し、辞職勧告だけでなく正確な説明を求める決議案まで否決。身内をかばう姿勢をあからさまにした。

 河井夫妻に全ての責任を押しつけ、有権者が忘れるのを待とうというのだろうか。事件が地元に残した傷は深く、政治の信頼回復の道ははるかに遠い。

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