(社説)リニア建設 中断し説明と再検証を

社説

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 いつ開業できるのかわからない。コロナ禍で需要の見通しも怪しくなった。いったん工事を中断し、地元への説明や採算面の検証を優先すべきではないか。JR東海が進めるリニア中央新幹線(東京・品川―名古屋)の建設である。

 6月の静岡県知事選で、川勝平太氏が4選した。川勝氏はこれまで、河川の水量が減る恐れなどを理由に、静岡工区(8・9キロ)の着工に対する河川法に基づく同意を見送っており、選挙戦でも反対を訴えた。選挙結果は、地元の民意として重く受け止める必要がある。

 南アルプスの地下最大1400メートルを、静岡県を貫通するように掘るトンネルは、前例の無い難工事だ。不確実性が高く、環境への影響を正確に予測できるとは限らない。住民が懸念を抱くのは当然で、理解を得ることが事業を進める前提のはずだ。

 川勝氏は、静岡県を迂回(うかい)するようルート変更を求めることも辞さない構えだが、JR東海は「あり得ない」としている。変更すれば遠回りになり、高速移動という利点がそがれることを嫌っているのだろう。

 予定している2027年開業は絶望的だが、沿線自治体には早期開業への期待もあり、JR東海は静岡県外の工事は続ける方針だ。だが、今のままでは完成を迎えるのは難しい。

 静岡県以外でも、大深度工事や残土の処分をめぐる不安の声が住民からは聞こえる。既成事実を積み上げるように工事を強行するのでは、関係者の納得は得られまい。環境や地域住民に及ぼす影響を検証し、具体的なデータをもとに説明を尽くすことが先決だ。

 採算面も見通せない。コロナ禍でウェブ会議が普及し、リニアや新幹線の利用客は想定を下回る可能性が指摘されている。収益力が低下した場合、大阪延伸を含めた工期にどう影響するのか。JR東海は事業計画を練り直すことを考えるべきだ。

 リニアには、政府も3兆円を超低利で貸し付けている。融資が焦げ付いて国民負担が生じないよう、国土交通省も計画を精査する責務がある。

 新幹線の3倍の電気を消費するリニアは、二酸化炭素の排出量を増やすとみられる。高速化と省エネのバランスも、改めて議論しなければならない。

 リニアをめぐる社会経済の環境は、政府が14年に計画を認可したときから大きく変わった。名古屋までの総事業費7兆円のうち、昨年度までに使われたのは1兆円にとどまる。まだ遅くはない。JR東海と国交省はいったん立ち止まって事業の是非を再検討し、地元と真摯(しんし)に対話することが求められる。

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