(社説)ワクチン格差 是正は先進国の責務だ

社説

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 ウイルスに国境はない。世界のすべての地域で流行を抑え込まねば、再発を繰り返す。

 なのに、豊かな国でワクチンの接種が加速する一方、貧しい国ではほとんど進んでいない。事態を変えるには国際社会の協調した行動が求められる。とりわけ先進国の責務は重い。

 先の主要7カ国(G7)保健相会合では、将来の感染症に備えた制度作りなどで一致した。だが、ワクチンの世界での共有は、「国内状況が許せば」支持するとの表明に終わった。危機感が乏しいのではないか。

 米英カナダなどは、全国民が2回接種する分を大きく超える数量を契約ずみだ。政府が自国民を守ろうとするのは理解できるが、あまりに過剰な規模となれば、「囲い込み」といわれても仕方あるまい。

 途上国にワクチンを分配する仕組みは、世界保健機関(WHO)などが主導する「COVAX(コバックス)」がある。年内に途上国人口の約3割、18億回の供給をめざす。だが、これまでの提供は7700万回にとどまる。主要な供給元のインドが、自国の感染爆発で輸出を止めた影響が大きい。

 この枠組みに頼るアフリカでワクチンを調達できたのは50カ国で4700万回あまり。接種率は2%に満たない。先進国は支援を強める必要がある。

 11日からG7首脳会議が開かれる。その前に、WHOや国際通貨基金など四つの国際機関のトップが連名で提言をした。柱は、ワクチンの公平な分配などのために500億ドル(約5兆5千億円)を投じることだ。

 それにより感染や命の損失を減らせば、25年までに世界で9兆ドルの経済効果があるという。逆に接種から取り残された国があれば、危険な変異株が生まれかねない。世界全体に跳ね返り、結局は経済回復を遅らせる――そう訴えた。

 日本を含む各国はこの認識を共有すべきだ。バイデン米政権は、COVAXを通じて5億回分のワクチンを約100カ国に供給する計画を立てているという。各国が具体策を詰め、格差の是正を急いでほしい。

 一方、国際的な枠組みとは別に、二国間でワクチンを融通する動きも進んでいる。中国やロシアが先行したが、米国や日本も当面使う予定のない分をアジアなどに直接提供し始めた。

 相手国の事情を踏まえて迅速に人道支援するためならば結構だ。だが、外交的な影響力を競うための道具とするならば、人道の理念は損なわれ、配分にもゆがみを生みかねない。

 ワクチンは人類の公共財とするべきだ。誰もが健康に生きる人権の価値を再確認したい。

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