(社説)代替イージス 議論の土台を伏せるな

社説

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 破綻(はたん)した陸上イージスの代替策は、効果が3分の1にもかかわらず、費用の総額は少なくとも約9千億円と、2倍になることが明らかになった。安倍前政権の「負の遺産」を引き継ぐ計画とはきっぱりと決別し、白紙から検討し直すべきだ。

 菅政権は昨年末、断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代えて、「イージス・システム搭載艦」2隻の整備を決めた。

 米国と購入契約を済ませた陸上イージス用の装備を海上に転用するという、前例のない取り組みである。どれだけコストが膨らむか見通せず、それに見合う効果もはっきりしないと、社説は疑問を呈してきた。

 防衛省は、導入費は2隻で4800億~5千億円以上と公表したが、維持整備費はいまだ明らかにしていない。ところが、朝日新聞の取材で、閣議決定に先立つ昨年11月の時点で、総コストを試算した内部文書をまとめていたことがわかった。

 維持整備費は少なくとも3792億~3842億円で、導入費と合わせると陸上イージスの2倍。洋上での運用期間は年126日と、日本全土を「24時間365日」カバーできるという触れ込みだった陸上イージスの3分の1程度。総額がさらに膨らむ可能性にも触れていた。

 費用対効果を吟味し、導入の是非を判断するうえで欠かせぬデータを、これまで伏せてきたと見られても仕方あるまい。

 報道があっても、情報開示に後ろ向きな防衛省の姿勢に変化はない。衆院安全保障委員会でこの問題を取り上げた野党議員に対し、岸信夫防衛相は「報道を前提とした件に、答えは差し控える」と述べ、およその規模であっても総コストを示すことはなかった。

 納税者たる国民の代表として、予算をチェックする国会の機能を軽んじているばかりではなく、安全保障をめぐる真剣な議論を自ら阻害しているのではないか。

 陸上自衛隊南スーダンPKOやイラクに派遣された際の日報をめぐっては、防衛省・自衛隊の隠蔽(いんぺい)体質が厳しく批判された。沖縄の辺野古沖の軟弱地盤の存在など、不都合な事実をなかなか認めようとしないのも、根深い体質といえる。これをそのままに、国の安保・防衛政策に対する国民の幅広い理解や支持を得るのは難しかろう。

 台頭する中国。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮。東アジアの厳しい安保環境のなかで、日本の平和と安全を守るために、どのような防衛力が必要か。国民的な議論を深めるためには、土台となるデータがきちんと示されなければならない。

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