(社説)ワクチン接種 国が先頭で課題解決を

社説

[PR]

 65歳以上の高齢者への新型コロナワクチン接種が本格化している。政府、自治体、医療関係者が連携を密にし、一体となって取り組んでもらいたい。

 予約の電話がつながらない、システム障害が起きたなど、不具合が連日報道をにぎわす。地元の有力者を優先しようとした事例も発覚し、批判を浴びた。行政に圧力をかける言動は厳に慎むべきだし、役所の側も疑心暗鬼を生まぬよう、公正・透明な運営に徹する必要がある。

 菅首相は7日の会見で「1日100万回接種」という目標を打ち出した。7月末までに高齢者への接種を終わらせるという公約から導き出された数字のようだが、現実を踏まえて積み上げたものではなく、政権内で練られた形跡もない。

 政府はきのう、自治体の9割近くが7月末までに終了見込みだと発表した。少し前までは約4割が難しいと答えており、歓迎すべき「前進」ではあるが、もしそこに無理やつじつま合わせがあれば、かえって政治への不信を深めかねない。

 思い起こすのはPCR検査をめぐる騒ぎだ。安倍前首相は昨年2月に「十分な能力を確保する」と約束したが、その後も目詰まりはほとんど解消されなかった。この教訓も踏まえ、何がボトルネックになっているかを見極め、その解消に向けて、国が積極的かつ着実な手立てを講じていくことが肝要だ。

 多くの自治体が課題に挙げるのが注射の打ち手の確保だ。かねて指摘されながら解決の道が見えないのは、行政の力不足と言われてもやむを得ない。

 政府も歯科医師による接種を可能にしたり、離職中の看護師の登用を促したりしている。実技研修を充実し、薬剤師救急救命士といった人材の活用についても検討を急いではどうか。

 自治体独自の工夫を収集し、共有する試みも意義深い。

 例えば東京都調布市の集団接種会場では、接種を受ける人は個別に仕切られたブースで待機し、医師らが巡回する。医師が着席し、高齢者が順繰りにその前に出ていく方式に比べて、移動に伴う負担やリスクが減り、効率も高まるという。

 市民の側も、感染対策をとりつつ、予約がとれるまでは落ち着いて待つなど、自治体の現場が業務を円滑に進められるよう協力に努めたい。

 より若い世代の人たちを対象とする接種も早晩始まる。医療従事者、そして高齢者への接種を通じて浮かび上がった問題を整理し、「次」に向けてさらに適切な仕組みを構築することも忘れてはならない。経験のないプロジェクトを滞りなく実践するために知恵を絞るときだ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら