(社説)夫婦別姓 矛盾解消に国会は動け

社説

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 夫婦に同じ姓を名乗ることを強いる日本の制度の矛盾が、またひとつ浮かび上がった。これ以上放置することは許されない。一日も早い解消に向けて国会は動くべきだ。

 米国で活動する映画監督の想田(そうだ)和弘さんと舞踏家の柏木規与子さんは24年前、ニューヨーク州法に基づいて別姓のまま結婚し、婚姻許可証を得た。ところが3年前に日本で婚姻届を出したところ、別姓は認められないとして受理を拒まれたため、裁判所に救済を求めた。

 驚いたことに国側は「共通の姓を決めないのだから2人に結婚の意思はなく、婚姻は成立していない」と主張した。

 複数の国が絡む問題にどの国の法を適用するかを定める「通則法」には、「婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による」とある。東京地裁は「外国にいる日本人が別姓のまま結婚することを法は許容している」と述べ、2人の婚姻は国内においても有効に成立していると判断した。当たり前の話だ。

 ところが地裁は、日本で婚姻届が受理されなくても、2人の権利や法的地位に現実の危険や損害があるわけではないなどとして、2人の関係を公に証明する措置には踏み込まなかった。

 それで済ませていい話だろうか。夫婦が暮らしていくうえで公的機関の証明が必要になる場面は多い。戸籍上他人のままだと、税の控除、成年後見の申し立て、相続などで配偶者として扱われない恐れがある。「結婚は有効だが、結婚による法的保護は受けられない」となれば、通則法は何のためにあるのかとの疑問がわく。

 個人の権利や平等を重んじる観点から、海外では、同姓、別姓、あるいは2人の結合姓を選べるようにする動きが進む。国内でも、「自分らしく働ける社会の実現」を掲げ、企業経営者らが選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める署名活動を行うなど、法改正は急務の課題であるとの認識は、立場を超えて様々な領域に広がっている。

 こうした時代の流れに取り残されているのが自民党だ。

 夫婦の姓を考えるワーキングチームをつくり、今月に2度会合を開いたが、本格的な議論は次の衆院選の後だという。多くの野党が別姓導入に賛成の姿勢を打ち出すなか、選挙の争点にならないよう、先送りを図ったのは明らかだ。結婚の条件として同姓になることを求められ、苦しみ、悩む人々の姿は、目に入らないとみえる。

 法相の諮問機関の法制審議会が選択的別姓の導入を答申して25年が過ぎた。人権がないがしろにされた25年と言っていい。もう答えを出さねばならない。

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