(社説)処理水の放出 納得と信頼欠けたまま

社説

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 東京電力福島第一原発で生じる汚染水を処理した水について、政府は海洋放出すると決めた。懸念を抱く国民は多く、強い反対があるなかでの決定だ。政府や東電は社会の理解を得ぬまま放出することなく、対話を尽くす責務がある。

 事故以来、溶け落ちた核燃料を冷やす注水や地下水流入で汚染水は増え続け、処理済み汚染水のタンクは1千基を超えた。東電は2022年秋にタンクが満杯になると説明する。

 敷地内には今後、核燃料を一時保管する施設も必要とされ、経済産業省の小委員会は20年2月、複数の方法から海洋放出を有力とする姿勢を示していた。

 経産省によると、処理で取り除けないトリチウムを含んだ水は国内外の原発でも放出されており、周辺への影響は確認されていないという。政府や東電は、風評被害を抑える説明をし、漁場などの放射性物質の調査も拡充していく。被害があったら東電は、地域や期間、業種を限らず賠償するという。

 それでも、住民や消費者が不安を抱くのは当然のことだ。事故を起こした原発からの、溶け落ちた炉心の冷却に使った水の放出であり、いつまで続くかもわからない。初めての試みで不測の事態も心配される。

 東電への不信も根深い。汚染水から除去できるとしていた放射性物質が残留していたのに、積極的に説明していなかったことが18年に発覚。最近もテロ対策の不備や地震計故障問題があり、安全文化や企業体質に改めて疑問が持たれている。原発事故の賠償でも、被災者との和解を拒否する事例が相次いだ。

 福島の漁業者は今月、本格操業への「移行期間」に入ったばかりで憤りは大きい。全国漁業協同組合連合会も放出反対の姿勢を変えていない。東電は15年に福島県漁連に「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と文書で回答している。この約束はどうなるのか。

 政府や東電は、納得が得られるまで対話を尽くすとともに、放出する場合は客観的で信頼できる放射性物質のモニタリング体制を整えるべきだ。何よりも、不都合なことが起きた時、制度上は公表が義務となっていなくても、積極的に情報公開する必要がある。怠れば不信が深まり、風評被害も拡大する。

 放出に必要な設備の設計や建設、原子力規制委員会の審査などに2年ほどかかるという。22年秋にタンクは満杯になるというが、新たなタンクを設けるなど、さらに貯蔵する余地はないのか。期限ありきの放出は許されない。地元の理解が不可欠であることを、政府と東電は改めて胸に刻むべきだ。

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