(社説)大企業の減資 中小企業の基準見直せ
大企業が減資して、中小企業になる動きが相次いでいる。スカイマーク、毎日新聞、JTBなどが今年度末にかけて順次、資本金を税法上、優遇策を受けられる中小企業の基準である1億円ちょうどまで減らす。
中小企業は、赤字であっても人件費などに応じて払わなければならない法人事業税の外形標準課税が免除される。大企業より多くの赤字を、今後の利益にかかる法人税から差し引くこともできる。法人税率も大企業より低い。税負担が減れば、コロナ禍などで悪化した財務の立て直しの一助になろう。
ただ、税優遇の目的は、大企業に比べてコスト削減や資金調達がしづらいなどのハンデを補うことにある。実態が大企業なのに優遇されるのであれば、税法の趣旨に反すると言わざるを得ない。コロナ禍による経営環境の悪化に対して政府は、無担保無利子融資や納税猶予の特例などの対策をとっている。こうした支援を有効に使うことで、危機を乗り切って欲しい。
公平・中立という税の原則を逸脱する事態が生じている原因は、資本金の多寡で中小企業かどうかを決める仕組みにある。2006年の会社法施行で資本金が1円でも起業できるようになるなど、企業活動における資本金の意義は低下している。欧米の優遇税制は、売上高や従業員数を基準とするのが一般的だ。しかし財務省は「対象を確認しやすい」として、1960年代に導入した資本金による基準を改めていない。
資本金は税制だけでなく、中小企業向けの補助金などの支援策でも線引きに使われている。19年の消費増税前にも、中小企業を対象にしたポイント還元策に参加するため、小売業者らによる減資が急増した。
コロナ禍で多くの企業の経営が悪化するなか、減資は今後、ほかの大企業にも広がる可能性がある。公平性を確保するため、事業規模の実態をより的確に捉えられる基準に、政府は早急に改めるべきだ。
日本企業の99%近くを占める中小企業は、国内の従業員数の7割が働く雇用の受け皿になってきた。それだけに、どう支援するかは今後の日本経済にとって大きな課題である。
これほど広範な企業を一律で支援の対象にするべきなのか。人口減少にともなう人手不足は生産性の向上なしには乗り切れないが、中小支援策には企業の成長意欲をそぎ、生産性向上を妨げる弊害があることにも目を配らねばならない。
地方の暮らしを支える零細事業者への影響にも配慮したうえで、求められる中小企業支援策を政府は練り直す必要がある。
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