(社説)英TPP申請 加盟へ前向きに交渉を

社説

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 英国が、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請した。発足時のメンバー11カ国以外からは初めてである。

 TPPの関税撤廃率は100%近く、知的財産やデジタルデータの保護ルールなども高い水準の内容が盛り込まれている。このルールを世界に広げるうえで、太平洋に面していない主要国を迎える意義は大きい。

 加盟には、既に批准している7カ国すべての同意が必要とされる。今年のTPP議長国として、日本は各国に前向きに検討するよう呼びかけるべきだ。

 欧州連合(EU)から離脱した英国には、経済の成長センターであるアジアとの結びつきを深めたいとの思惑があるのだろう。民主主義や法の支配という基本的な価値観を共有する英国は、安定した国際秩序を守るうえでも重要なパートナーだ。経済面だけでなく、外交面でも協力関係を深めたい。

 ただ、英国の加盟は、現行のルールを守ることが大前提である。TPPには、タイや台湾のほか、中国も加盟を検討している。仮に、英国に対して条件を緩めれば、ほかの国も今後、確実に同様の要求をしてくると予想される。

 協定の質を堅持する姿勢を明確にするためにも、すべてのルールの受け入れが条件であることを譲ってはならない。

 TPPのルールを世界標準にしていくには、米国の復帰が不可欠だ。バイデン政権は友好国との連携を掲げているが、トランプ前政権が火をつけた保護主義の機運が米国内にはくすぶり続ける。当面は、自国の雇用や産業の保護を優先する方針で、復帰の見通しはまったく立っていない。

 TPP経済圏が拡大すれば、加盟していない米国の企業は関税面などでの不利が大きくなり、復帰に向けた米国内の議論が深まる可能性がある。日本政府は英国との交渉を進めると同時に、米国にも粘り強く方向転換を促すべきだ。

 貿易自由化は本来、世界貿易機関(WTO)のもとですべての国が進めるのが理想であり、TPPのような一部の国によるメガFTA(自由貿易協定)は次善の策に過ぎない。WTOは空席が続いたトップの事務局長が決まり、機能不全の解消に向けて一歩前進した。頓挫している多国間交渉が新事務局長のもとで動きだすよう、日本も協力しなければならない。

 EU離脱で独自路線を強める英国だが、大陸との溝が深まれば、世界の政治・経済を混乱させる要因になりかねない。アジアへの接近を歓迎しつつ、EUとも健全な関係を築くよう、英国に求めていく必要がある。

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