(社説)地下工事で穴 過信を排し安全確保を

社説

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 地下の奥深くで行う工事だから、地上の構造物や生活に影響は出ない。そんな説明がもろくも崩れた。不信を拭うために何をすべきか。組織や立場にかかわらず、国を含む全ての関係者の取り組みが試される。

 東京・調布で昨秋以降、道路の陥没や地下の空洞が相次いで見つかった。近くで東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事を進めていた東日本高速道路(NEXCO東)の有識者委員会が先週、工事との因果関係を認める調査結果を公表した。

 それによると、工事は地表から40メートル以上深い地中で行われていた。掘削機に土砂が詰まって動かなくなるトラブルがあり、土を軟らかくする薬剤を注入したところ、土砂を取り込みすぎるミスが発生。砂や小石が多い地質だったため地盤が緩み、陥没などを招いたという。

 報告書には「特殊な地盤条件下において行った特別な作業」が原因だったとある。「通常」はこうした事故は起きないと言わんばかりの記述で、疑問を抱かざるを得ない。

 外環道の建設は、01年に施行された大深度地下使用法に基づく2例目の事業だ。国などの認可を受ければ、地権者の同意や用地買収なしに地下深くを利用できる制度で、ルート設定などの自由度が高く、工期や予算を抑えられる利点がある。

 しかし大深度での工事が周囲にどんな影響を及ぼすか、十分な知見が蓄積されているわけではない。特異事例として片づけるのではなく、今後も起きうる問題として向き合わなければ、再発防止はおぼつかないし、人々の不安は消えない。

 そもそも「特殊な地盤条件」であることを事前に掌握し、それに見合う工法をとるのが専門家の仕事ではないのか。

 有識者委員会のメンバーの多くは、この工事の施工技術を検討した別の委員会の構成員と重なる。当初の計画に無理や見落としはなかったか、第三者の目で検証する必要がある。

 現場周辺では陥没の約1カ月前から住宅や地面にひび割れなどの異変があり、NEXCO東にも通報が寄せられていた。にもかかわらず工事を続けたことが、住民の不信を増幅させた。過ちを反省し、徹底した情報開示、丁寧な説明、そして原状回復と誠実な補償・賠償に取り組まなければならない。

 大深度地下の利用は、リニア中央新幹線の建設でも首都圏と愛知県内の計50キロ分が認可されている。事業者はもちろん、国も今回の事態を踏まえて、安全の確保に万全を期してもらいたい。過信は市民のくらしを脅かし、技術の進歩も阻害する。そう肝に銘じるべきだ。

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