(社説)ワクチン接種 難題着実に解決し前へ

社説

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 米ファイザー社の新型コロナワクチン厚生労働省の特例承認を受け、あすにも医療従事者への先行接種が始まる。

 新技術で開発されたワクチンを、短期間で国民の多くに接種するという前例のない事業だ。十全な実施態勢を築き、接種の意義と必要性について社会の理解を深めることが不可欠だ。

 先行接種では事前の問診や本人意思の確認を丁寧に行い、今後のモデルになってもらいたい。また、副反応などを把握する目的で接種後1カ月間程度の健康状況調査を実施する。詳しい結果を速やかに公表することが信頼の向上に通じる。

 医療従事者に続き、4月以降65歳以上の高齢者への接種がスタートする。約3カ月の間に1人2回の接種を済ませるには、数多くの難題が待ち受ける。

 いつまでに、どれだけの量のワクチンを確保して、各地に届けるのか。政府は確たる見通しを依然示せず、自治体や医療界から不安や不満の声があがる。正確で迅速な情報の伝達がなければ実務は回らない。

 政府は先週、ワクチン1瓶当たりの接種回数を6回から5回に減らすと発表した。注射器の構造が原因だというが、計画に大きな影響が及ぶ見直しだ。回数問題は欧米ではかねて論議になっていた。政府はこうした基本情報をどう収集し対処してきたのか。点検し、正すべき点は早急に正さねばならない。

 接種を受けやすい環境をどうつくるかという課題もある。

 自民党は、体育館などでの集団方式だけでなく、近所の医療機関、職場やその周辺でも接種できるようにすべきだと提言した。厚労省も地域の診療所を使う東京都の「練馬区モデル」を先進事例として紹介している。

 ふだんから持病など健康状態を把握している医師に接種してもらえれば、事後の体調変化の相談もしやすい。ただし、そのためには地域の医療関係者の理解と協力が不可欠だ。

 ファイザー社のワクチンは超低温での管理が求められ、短期間で使い切らなければならないことから、効率のいい集団方式が浮上した経緯もある。そうした事情も踏まえながら、安全で便利な接種機会の提供に向け、政府、自治体、医療界は連携して準備を進めてほしい。

 接種後に起きる可能性がある健康被害に関しては、都道府県を中心に相談窓口を整備し、医療機関につなげる仕組みを設けるという。個々人への対応はもちろん、大事なのは事例をデータベース化し、接種との因果関係を分析・評価する作業だ。国主導で取り組み、国民の生命と健康を守るという、政治の最大の使命を果たす必要がある。

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