(社説)米ロの核軍縮 延長を基に新枠組みを

社説

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 米国とロシアはいまも、世界の核兵器の9割を抱えている。その核戦力を制限する両国間の条約は、ひとつしかない。

 新STARTと呼ばれる、新戦略兵器削減条約である。両国政府は、その期限が切れる寸前で5年間の延長に合意した。

 両国間にはもうひとつ、中距離核戦力全廃条約があったが、トランプ前米政権が離脱していた。今回の合意で、核軍縮条約がすべて消え去る、という最悪の事態は免れた。

 発足まもないバイデン米政権にとっては、ひとまず現状維持の判断をしたのだろう。

 ただし、国際的な核のルールである核不拡散条約の上では、米ロとも核軍縮の義務を負っている。それを果たしたというには全く不十分なままだ。

 冷戦期から核の警告を続ける米国の科学者らは今年、「終末時計」の針を、過去最悪だった昨年の「残り100秒」に据え置いた。核抑止にもとづく対立構造に人類の生存が委ねられた危うさは、好転していない。

 米ロ両国はただちに、後継条約づくりへと動くべきだ。

 人工知能サイバー攻撃、超音速ミサイルなども開発が進む。量的な削減にとどまらず、新技術と核を組み合わせた質的な軍拡も止めねばならない。

 信頼醸成のためには、現行のルールを守り、査察を受ける姿勢も不可欠だ。

 米国と中国の覇権争いも懸念される。核軍拡に連鎖しないよう、中国も加わる多国間の核軍縮交渉が求められる。

 中国は、自国の核は必要最小限のものであり、米ロと同列にされるべきではないと主張し、多国間構想に冷淡だ。

 だが量的に劣るといっても、弾頭数すら公表していない。新型ミサイルなどの導入を加速させ、南シナ海などでの強硬姿勢も不信を招いている。

 中国が真の平和的発展をめざすなら、情報を公開し、透明性を高めるべきだ。そこから多国間の歩みにも加わらなければならない。

 非核保有国の不満は高まっている。それが先月発効した核兵器禁止条約を後押しした。保有国はいずれも条約を冷視しているが、自らの責任を省みない不誠実な態度というほかない。

 バイデン政権は、核攻撃を受けない限り核兵器は使わないとする「先制不使用」宣言を検討する可能性がある。

 同盟関係にある日本政府はかねて宣言に後ろ向きだが、宣言下でも防衛の信頼を保てるとする米側の専門的知見もある。

 「核なき世界」へ歩を進めるには、国際潮流を見すえた新たな思考が必要だ。被爆国日本の責任と役割が問われている。

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