(10代の君へ)止まるのも歩きだすのも自由だよ 池松壮亮さん
10代の初めから俳優の仕事をしています。年に一度ほど1、2カ月間、東京で全然次元の違う虚構の物語の中で誰かを演じる仕事を終えて、福岡に戻ると、いつも周りとの壁を感じました。学校では浮かないようにしていました。野球をしている時間が唯一楽しかったです。
周りからは、中学を卒業したら拠点を東京に移すものだと思われていましたが、自分の青春を福岡に置くことにこだわりました。すごく生意気な考えですが、働いて人気者になり、福岡にいる人たちに良い知らせを届けることは簡単にできる気がしたんです。でも、もっとブレーキをたっぷり踏んだ上で、アクセルを踏みたいと思いました。
両親も同じような考えで、建築業の父親からは「日々の感覚を持ってないやつは何かを演じられない」などと言われました。高校卒業後に上京しても、俳優業100%の生活にせずに大学に進んだのは、きっと人生の足りないピースを埋めようとしたんでしょう。
大人たちは若者に向かって「未来への可能性があふれている」「もっと友だちを作ろう」などと説きがちです。でも10代の頃の僕は、そういう大人に「あなたはどうだったのか」と問い返したかった。
かつて尾崎豊は「親や大人にこう言われたが、世の中は矛盾だらけだ」と歌いました。尾崎が生きた当時よりも、もっと社会が複雑になり、矛盾を感じる世の中になっています。選択肢は増えるのにどれか一つを選べと言われても、どれも正しく思えてしまう。
30歳になりましたが、10代の頃から考えてきた、人生に対するモヤモヤへの答えは出ていません。でも「自分がどんな状況であれ、時間は流れ、世界は動く」と分かってからはだいぶ楽になりました。10代の人には「自分で時間を止めさえしなければ、大丈夫。立ち止まるにせよ、歩きだすにせよ、自分で選択できる自由はある」と伝えたいです。(聞き手・伊藤恵里奈)
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いけまつ・そうすけ 俳優。1990年、福岡県出身。映画「アジアの天使」(石井裕也監督)が今年公開。東日本大震災10年特集NHKドラマ「あなたのそばで明日が笑う」が3月6日に放送。
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