共通テスト、新傾向続々 身近なテーマ、出題目立つ

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 17日に第1日程が終わった大学入学共通テストは、多くの科目で、身近な話題を題材にしたり会話文を盛り込んだりする新しい傾向の問題が目立った。一方で、2017、18年の試行調査で指摘された出題方法などの問題点を修正した科目もみられた。文部科学省は今回のテスト結果も参考にして、24年度以降の入試制度改革にとりかかる。▼1面参照

 100メートル走のタイムが最も良くなるストライド(1歩の長さ)とピッチ(1秒あたりの歩数)を、2次関数を用いて考える。これは「数学1」「数学1・数学A」の問題だ。ほかにも高校生の読書に関する新聞記事を扱った「数学2」「数学2・数学B」など、2日目も受験生に身近な出題が目立った。

 背景には、2022年度から高校で導入が始まる新学習指導要領がある。学んだことを日常生活で生かすため、資料を読み、調べ、話し合い、課題を解決する――。新指導要領は、そんな「主体的・対話的で深い学び」を各教科に採り入れ、「思考力・判断力・表現力」を育成するように高校に求めるからだ。

 こうした力を測るため、国語・数学への記述式問題の導入と、英語の「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る民間試験の活用が決まったが、いずれも19年に見送られた。だが、従来からのマークシート式問題も出題の内容や方法などが見直された。

 一方、17、18年に実施された試行調査の結果を受けて、今回、一部の科目で出題方法などが修正された。

 数学の2科目では、試行調査で多く見られた会話文は減った。2回目の試行調査で平均正答率がどちらも5割を切り、記述式問題を含んでいた「数学1・数学A」を中心に「時間が足りない」との指摘が相次いだためだ。それでも今回、問題文の情報量はセンター試験より増えた。大阪市立の高校3年の男子生徒(17)は、問題文が長いと思った。「理系でも、問題文を読解する国語力が求められていると感じた」(編集委員・増谷文生、花房吾早子)

 ■24年度以降の制度、今回踏まえ議論へ

 そもそも、共通テストの「二枚看板」は、記述式問題と英語民間試験だった。だが、ともに活用は見送られ、仕切り直しの議論をしている間に初回を迎えた。

 文科省は19年12月、新入試制度を検討する有識者会議を立ち上げた。高校3年間を新指導要領で学ぶ、今の中学2年生が大学受験を迎える24年度以降の入試制度について、今回のテスト結果も参考に年度内にも文科省への提言をまとめる。

 会議では、共通テストでの記述式問題や英語民間試験の活用には否定的な意見が目立つ。昨秋報告された文科省の調査結果でも大学の8割超が記述式問題を出すべきではないと答え、英語の「話す・書く」力を共通テストで評価すべきとしたのは約3割にとどまった。会議関係者は「大きな混乱を招く恐れがあった改革を『やっぱりやる』と言うには根拠がなさすぎる」と話す。

 24年度以降の共通テストは、新学習指導要領で必修となる「情報」が新設されるなど出題科目が再編される見通しだ。文科省は会議の提言を踏まえ、今夏までには制度改革の内容を公表する。(伊藤和行、西村悠輔)

 ■<視点>迷走総括し、試験内容検証を

 大学入学共通テストの姿が明らかになった。高校教育、入試、大学教育を「三位一体」で変えるという改革の狙いは実現したのか。

 第1日程を見るかぎり、センター試験からの変化は当初の設計ほどではない。二枚看板だった国語と数学の「記述式」、英語の「4技能試験」が消えたためだ。その結果、例えば国語では「センター試験から大きく変えた試行調査と比べ、元の傾向に戻った」との評価も出ている。それはあながち悪いことではない。理念先行の改革が、やっと現実的なものになったことを意味するからだ。

 必要なのは、問題の具体的な検証である。冊子のページ数はセンター試験より増えたが、考えて解答する時間はあったのか。思考力を問うつもりが、情報処理力の判定になっていないか。会話文の問題がほとんどの教科で出たが、形式優先になっていないか。第2日程も含め、問題の量と質の議論が要る。入試改革の本丸は、新学習指導要領で学び始めた学年が受ける2024年度からだ。その前に、ここまで迷走を重ねたのはなぜかの総括が欠かせない。

 文科省の有識者会議は24年度に向けた提言の議論を重ねている。東北大の倉元直樹教授(大学入試学)は「入試の制度変更は不安やリスクを招くのに、受験生はどこまで保護されてきたのか」と疑問を投げかける。コロナも含め、これほどまでに入試に振り回された受験生はいないのではないか。受験生を大切にしない政策は決して許されない。(編集委員・氏岡真弓

 ■大学入学共通テストを巡る経緯

<1990年> 第1回大学入試センター試験。私立大が参加

<2006年> 英語にリスニング導入

<12年> 「地理歴史」「公民」で大規模な問題冊子の配布ミス

<13年> 教育再生実行会議が新テスト導入を提言

<14年> 中央教育審議会がセンター試験廃止と新テストでの記述式問題や英語民間試験の活用を答申

<17年> 20年度からの大学入学共通テストの内容公表

<17年> 試行調査を実施(18年も)

<19年> 英語民間試験の活用と記述式問題の導入を見送り

<20年> 最後のセンター試験実施

<21年> 第1回共通テスト

<夏ごろ> 24年度以降の新入試制度の内容を公表

<25年> 新入試制度での共通テスト実施

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