(社説)米大統領弾劾 民主大国の復元力を

社説

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 瀬戸際に立たされている民主主義制度に対する信頼を取り戻せるか。米国の政治社会そのものが問われている。

 トランプ大統領の支持者らが連邦議事堂を襲撃した事件にからみ、下院が大統領を弾劾(だんがい)する訴追案を可決した。

 昨年の弾劾は権力の乱用が問われたが、今回は反乱扇動の疑いである。同じ大統領が2度にわたり弾劾訴追されたのは初めてだ。

 訴追を受けた上院の審議は、20日の新政権の発足以降に行われるという。大統領を退任後に裁くのも前代未聞の事態だ。

 今回の騒乱は、憲法が定める政権移行の手続きを暴力で妨害しようとしたものだ。米政治史に汚点が刻まれた今、事態の正常化を図るのは急務である。

 司法当局による捜査とは別に、政治がこの冒涜(ぼうとく)行為の重大さを直視し、責任の所在を記録にとどめるという意味で、大統領弾劾はやむをえまい。

 前回の弾劾にこぞって反対した共和党から、今回は一部が賛成に回った。だが、今なお多数は大統領への明確な批判を避けている。

 トランプ氏の主張に沿って、選挙の結果を受け入れないと表明していた議員の多くも、沈黙したままだ。正道を見失う政治を改めない限り、新たな騒乱の火だねがくすぶり続けることを熟考すべきだろう。

 一方、政権内では、閣僚や高官の辞任が相次いでいる。経済界では、選挙結果を認めない議員に対する献金などの支援を見合わせる動きが出ている。

 ソーシャルメディアの事業者は相次いでトランプ氏による発信を止めた。その措置をめぐっては、表現の自由とのバランスも絡んで論議が続いている。

 いずれも、米議会襲撃という非常事態に直面した米国が、政治まかせにすることなく健全な民主社会を模索している表れであろう。この危機感が持続されるかどうかが、米国の今後の姿を左右するのではないか。

 香港問題をめぐり非難されてきた中国政府は、米国の騒乱を皮肉交じりに論評した。香港のデモを支持してきた米国は足元を見よ、との趣旨だ。

 世界のあちこちで強権政治が幅を利かせ、人権や法の支配などの原則が危ぶまれるなかで、民主大国・米国の揺らぎは痛手というほかない。影響力に陰りが見えるとはいえ、米国には今も国際秩序を安定させる役割が期待されている。

 そのためにも、内なる民主主義の復元力を示す必要がある。新政権を発足させるバイデン氏と与野党、そして市民社会のそれぞれに、新しい米国への立て直しを望む。

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