(社説)大川小の教訓 子供を守る決意ともに

社説

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 東日本大震災の発生から間もなく満10年になる。記憶を風化させず、未曽有の災厄を通して得た数々の教訓を、日々の生活の中で実践し、深めていくことが何よりも大切だ。

 突きつけられた大きな課題のひとつに学校防災の点検と強化がある。震災では多くの児童生徒や教職員が犠牲になった。宮城県石巻市の大川小では避難途中の計84人が死亡もしくは行方不明となり、適切な防災体制を築いていなかった市などに賠償を命じた仙台高裁判決が、19年10月に最高裁で確定した。

 これを受けて県教委が設けた有識者会議が、昨年末に報告書をまとめた。教育関係者はもちろん、防災に携わる全ての人にぜひ目を通してもらいたい。

 宮城県は震災後、▽立地条件や、火災などの二次災害も想定した学校独自の防災マニュアルの整備▽教委によるチェック▽各種研修の充実▽地域住民との連携――などの目標を掲げ、事前防災に取り組んできた。しかし報告書には、それらを実施しているのは「一部にとどまる」「半数程度にとどまる」といった記載が随所にある。

 子どもの安全を守るため、学校には地域住民よりはるかに高い水準の知識と経験が求められる。そう指摘した確定判決を踏まえ、文部科学省も19年末に、防災マニュアルの見直しなどを全国に通知した。だが、その履行は容易でないことを報告書は物語っている。

 日々の授業や部活動、生活指導などで教職員の負担は重い。それでも、報告書にあるように「いかなる災害においても、児童生徒等の命を確実に守る」のが教育関係者の使命だ。

 文科省は各都道府県教委と協力して現状把握を急ぐべきだ。そのうえで対応が遅れている学校を教委を通じて適切に支援・指導し、自らの通知を実効あるものにしなければならない。

 心配なのは、コロナ禍の影響で避難訓練や防災教育の時間を十分に確保できていない学校が少なくないことだ。災害が起きたら順にどう行動すべきかを子ども自身が考える「マイ・タイムライン」づくりなど、家庭でもできる取り組みも含め、対応力の養成に努めてほしい。

 専門家との連携も不可欠だ。全国の幼稚園から高校を対象とした文科省の調査では、外部の防災機関などの助言を受けているのは約3割にとどまる。研修や防災計画の策定にもっと専門知を生かす機運を高めたい。

 災害時、学校は付近の住民のよりどころにもなる。周囲にどんな危険があるかを日頃から一緒に考え、対策を講じる。子どもの命を守ることは、地域の人の命を守ることにも通じる。

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