(社説)イラン核合意 冷静に立て直しの道を

 一度壊れた信頼関係を取り戻すのはたやすくない。強い意志と冷静な判断が求められる。

 イランの核合意に関する次官級会合が16日にウィーンで開かれる。オンラインとはいえ、米大統領選後に関係国が集まるのは初めてだ。

 合意は、米トランプ政権の一方的な離脱で機能不全に陥っている。改めて立て直すための着実な一歩としてほしい。

 1月20日に就任するバイデン次期大統領は、合意に復帰する意向を表明している。だが、米議会にはイランへの不信感が根強く、新政権発足でただちに合意が元に戻ると考えるのは楽観的に過ぎよう。

 5年前にまとまった合意は、イランの核開発を大幅に制限した。地域大国による覇権争いで不安定な情勢が続く中東で、軍事的な緊張を抑え、核の拡散を防ぐ重しといえる。

 この多国間の約束に米国が背を向け、イランへの経済制裁を再開した影響は両者の対立激化にとどまらない。合意に加わった英仏独とイランの関係にも影を落とした。米政権の交代前に、できるだけその修復の努力をしておくことが肝要だ。

 米制裁は、イランとのほとんどの経済取引を対象とする。このため欧州の企業もイラン市場からの撤退を余儀なくされた。合意の維持を目指す欧州側は、イランが実利を得られる方策を模索したが、実効性のある手立てはとれなかった。

 経済が落ち込むイランは、対抗措置として合意から段階的な逸脱を宣言した。国際原子力機関IAEA)によると、ウラン濃縮度は制限を超え、貯蔵量は上限の12倍に達する。欧州が懸念を強めるのはもっともだ。

 心配なのは、イラン国内で合意に否定的な保守強硬派が勢いを増していることだ。2月の総選挙で強硬派が多数を握った国会はさきごろ、IAEAによる査察の制限や核開発の拡大を求める法律を可決した。

 首都テヘラン郊外で核科学者が暗殺され、一気に手続きが進んだ。イラン側はイスラエルが事件の背後にあるとし、最高指導者ハメネイ師は実行犯への「厳罰」を表明した。

 もし報復に出れば、合意への米国の復帰は極めて難しくなる。イランは短慮に走ってはならない。中ロを含め合意の参加国は、今回の会合でこの枠組みの意義を再確認し、イランに自制を促すべきだ。

 穏健派のロハニ大統領は来年で任期を終える。合意の成果を国民が実感できないままなら、6月の大統領選では強硬派が勝利する可能性が高い。合意の再生に残された時間は決して長くはない…

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