(社説)大阪非常事態 連携して医療を守れ

社説

 新型コロナの感染状況について、大阪府はきのう独自の基準に基づいて「医療非常事態」を宣言した。これにあわせて吉村洋文知事は、府民に不要不急の外出を控えるよう要請した。

 大阪はこのところ、政府の分科会が示した六つの指標の多くがステージ4(感染爆発段階)に該当する状況になっていた。とりわけ多数の医療スタッフを必要とする重症者の数が急増。医療態勢のこれ以上の逼迫(ひっぱく)を防ぐべく宣言に踏み切った。

 コロナ対応を優先するため、通常の医療の停止や延期を余儀なくされることも増えそうだ。この局面を乗り切るには、国はもちろん他の自治体の支援も不可欠だ。連携を密にし、住民や医療現場への説明を尽くしつつ対応を急がねばならない。

 吉村氏は近畿各府県などでつくる関西広域連合と全国知事会に対し、看護師の派遣を要請している。今月中旬に運用を始める「大阪コロナ重症センター」に所定の人数を集められないためだ。これとは別に、200床余を確保済みとされていた重症者用ベッドも、直ちに使えるのは8割程度にとどまる。

 スタッフ確保の見通しが甘かった。都構想をめぐる住民投票に注力した結果、コロナ対策が後手に回った――。そんな指摘や批判が出ている。後の検証は必須として、まず取り組むべきは目の前の事態の沈静化だ。

 県境を越えての連携は看護師の確保にとどまらない。たとえば兵庫県や京都府は、通勤通学などを除いて大阪との往来を控えるよう呼びかけている。大阪府も含め、社会に届くメッセージの発信が求められる。

 留意すべきは、リーダーシップの名の下、物事を果断に進めればいいという話ではないことだ。関係する人や機関への説明と準備をなおざりにすれば、状況をかえってこじらせる。

 今春、大阪市が市街地にある市民病院を、コロナ専門病院に転換させたのはその一例だ。全国初の試みとして注目されたが、松井一郎市長の決定を突然知らされた病院側は当惑した。入院患者を急きょ転院させるなどして新たな役割を果たしてきたものの、医師や看護師の負担は重く、離職者が相次いだ。

 その穴を埋めるため、今度は市立総合医療センターのスタッフを派遣することになり、特色のAYA(思春期と若年成人)世代専用病棟は一時閉鎖に追い込まれる事態に。混迷が次の混迷を生んでいる。

 未知の感染症相手に試行錯誤は避けられない。それでも、様々な事態を想定して次に打つ手を考え、実現に向けて丁寧に環境を整える。施策を進める際の基本を改めて確認したい…

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