(社説)有人宇宙飛行 意義、目的を明確に

社説

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 野口聡一さんの国際宇宙ステーション(ISS)での滞在が始まって2週間になる。ISSまでの飛行には米スペースX社が開発した宇宙船が使われた。来春の次回打ち上げには星出彰彦さんが搭乗する予定だ。

 民間の船で宇宙を行き来する時代の幕開けである。官と民とでどんな役割分担をしながら開発を進めるか。国内でも引き続き議論を深めたい。

 文部科学省は先ごろ、08年以来となる宇宙飛行士の募集作業を来秋から行うと発表した。日本は、米国が主導する国際月探査計画「アルテミス」への参加を正式に決めている。選ばれた飛行士は、月を回る軌道上に建設される基地や月探査に関わる活動に就く見込みだ。

 日本人飛行士の歴史は約30年前に始まり、着実に成果をあげてきた。飛行士の募集には毎回数百人の応募があり、子どもたちのあこがれの存在でもある。野口さんら現役飛行士7人の平均年齢は51歳。培ってきたノウハウを次世代に継承していくのは政府の大切な責務だ。

 近年、国際的な注目を集めているのが月にあるとみられる水資源だ。日本でもベンチャーを含む複数の企業がその開発・活用に関心を示している。各国と協働するアルテミス計画を通して、人類のフロンティアである月探査に貢献しようという政府の方針に異論はない。

 とはいえ、計画の実現には数兆円規模の費用がかかるといわれる。これまで日本がISSに投じてきた年間約300億~400億円を大きく上回る額の拠出を求められそうだ。

 コロナ禍で国の財政がいっそう厳しくなるなか、支出を最小限に抑えるための調整や工夫が欠かせない。あわせて計画の意義と将来の展望を丁寧に説明して、社会の理解を得られるよう努めなければならない。

 日米英など8カ国が先月署名したアルテミス計画の基本原則には、すべての活動を平和目的で行うこと、宇宙の探査にあたっては「全人類の共同の利益」をうたう国連宇宙条約を順守することなどが盛りこまれた。

 宇宙空間を「戦闘領域」と位置づけたトランプ米政権は、中国への対抗と国益優先の姿勢を鮮明に打ち出した。バイデン政権がどんな構えで臨むかが注目されるが、日本はこの原則を踏まえ、国威発揚を狙った宇宙開発とは一線を画すべきだ。

 コスト問題に加え、有人宇宙飛行は人命を失うリスクを常に伴う。月面に限れば、探査機やロボットでかなりのことができるとの見方もある。情報を適切に発信・公開し、国民と価値観や認識を共有しながら取り組む姿勢が不可欠だ。

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