(社説)マイナンバー カード強要は許されぬ

社説

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 菅首相の肝いりで、政府が行政機関のデジタル化を急いでいる。先週には、司令塔として来年9月に設立予定の「デジタル庁」に、マイナンバー制度全般の企画立案など七つの分野を所管させる案を公表した。

 政府がデジタル化の要に位置づけるのが、マイナンバーカードの普及である。いまは2割にとどまる普及率を、2022年度末にほぼ100%に引き上げる目標に向け、利便性の向上策を続々と打ち出している。

 来年3月からマイナンバーカードを健康保険証代わりに使えるようにするのに続き、運転免許証との一体化も進める方針だ。免許更新時の手続きや講習を、オンライン化できるという。22年度には、カードの機能をスマホに搭載できるようにすることも検討している。

 コロナ禍では、一律10万円の現金給付で自治体の現場が混乱するなど、デジタル化の遅れが鮮明になった。オンラインでの手続きに不可欠な本人確認の手段として、マイナンバーカードは有力な選択肢である。政府が普及を急ぐのもそのためだ。

 ただ、国民には、気軽にカードを持ち歩いたり使ったりすることに、抵抗感が強いことも忘れてはならない。

 カードの裏面には一生使う12けたの番号が記載されている。この番号を「むやみに人に教えてはならない」と説明してきたのは、政府自身である。カードを人に見せる機会を増やすのであれば、番号の記載をやめるといった不安を和らげる措置もセットで考えるべきだ。

 自民党は、保険証を将来的に廃止することも提案しているが、デジタルの知識が乏しい高齢者や、様々な機能が集約されたカードを紛失するリスクを気にする人もいる。

 マイナンバーへの銀行口座のひもづけについて、政府は検討していた義務化を見送り、本人の任意で行う方針にした。カード取得も個人の選択に委ねるべきだ。強要してはならない。

 カードを保険証や免許証と一体化すれば、病気や交通違反歴などの情報が行政機関で共有される懸念も生じる。実施するならば、情報が共有できない仕組みにしたうえで、国民にわかりやすく説明する必要がある。

 個人情報を一つの番号でひもづけるマイナンバーのシステムについて、政府は万全のセキュリティー対策を強調してきた。だが、会計検査院の1月の検査報告では、一部の自治体が、国の求める対策を怠っていたことが判明した。万が一にも対策に遺漏があってはならない。

 マイナンバー制度は、政府への国民の信頼が大前提だ。そのことを、常に胸に刻むべきだ。

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