(社説)電柱のない街 縦割り廃し将来像示せ

[PR]

 「行政の縦割り排除」を菅政権が看板にうたうのであれば、この問題でもしっかり結果を出してもらいたい。

 電柱のない社会の実現だ。

 強風や地震で電柱が倒れ、長期間停電する事態が繰り返された。道路がふさがれて緊急車両が通れず、救助や復旧に支障をきたしたこともある。平時の円滑な通行や景観の観点からも電線を地中化すべきだとして無電柱化推進法が制定され、政府は18年に推進計画を作った。

 計2400キロの道路から電柱を撤去する目標を掲げ、今年度が最終年度にあたる。だが進捗(しんちょく)率は春時点で4割にとどまる。しかも設計・着工だけで進捗したことにされるので、成果が目に見えるのはずっと先だ。

 工事の完成までに必要な歳月は平均7年。それだけの時間がかかる原因のひとつとして、電力や通信の事業者が別々に作業に入るため、全体の日程が延びることがあげられる。

 道路は国土交通省、電力は経済産業省、通信は総務省と所管が分かれ、政策の調整に時間がかかるとの指摘も以前からある。ようやく各省の担当者らで技術検討会を設け、工期の短縮や、電柱の10倍という1キロあたり約5億円の工事費の削減方法について協議することになったが、縦割り行政の弊害を実感させる動きの鈍さだ。

 政府は近く、来年度以降の推進計画を立てる。大事なのは長期的なビジョンを打ち出すことだ。全体像が不明のまま当面の数年間の目標を示すだけでは、多くの理解を得るのは難しい。自治体の取り組みとも連動させながら、住民一人ひとりがまちづくりのイメージを描けるようにしてほしい。

 電柱の新設に歯止めをかけることも忘れてはならない。法律を制定したというのに、いまも全国で年に約7万本のペースで増えている。多くは住宅建設に伴うもので、設置の判断はほぼ自治体に任せられている。

 参考になるのが、東京都が住宅開発事業者を対象に始めた制度だ。10~20戸の宅地開発の場合、電線を地中化する費用を最大1千万円助成する。財源の確保が難題だが、新たにつくる街については無電柱に誘導する施策を考えるべきではないか。ただし、地中化した施設が浸水すると停電を招く恐れがある。土地の性質を見極め、防水対策を徹底することが必要だ。

 無電柱化率は東京23区でも8%だ。100%のロンドン、パリ、96%の台北、49%のソウルに比べ、低さが際立つ。電線が張り巡らされた空を日本ならではの風景と楽しむ声もあるが、倒壊が招く様々な問題を考えると面白がってはいられない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません