(社説)米大統領選 粛々と公正な集計を

社説

[PR]

 米国の民主主義は傷ついたといわれつつも、自律機能を保っている。このまま粛々と制度に沿った手続きを進め、次の政権を決めてもらいたい。

 米大統領選は現地の投票日から2日たった今も、開票が続いている。共和党で現職のトランプ氏民主党バイデン氏が、緊迫の接戦を演じている。

 結果がどうあれ、改めて浮き彫りになったのは、米国社会を覆う分断の深刻さだ。

 米メディアの調査によると、今回の投票でも、地域や人種、世代、学歴などによって党派が分かれた。折り重なる断層をどう埋めて国民の融和を図るか、今後も重い課題になろう。

 一方で、投票を通じて政治参加する基本的な市民意識の強さも示された。コロナ禍にもかかわらず、投票率は過去120年間で最高の66%超に達したと推定されている。

 投票所での感染リスクを避けるため、かつてない規模で郵便投票が活用された。その影響で開票作業に一定程度の時間がかかるとしても、コロナ時代の対応策として仕方あるまい。

 勝敗を左右しそうな焦点の州では、票の途中集計が小差になり、予断を許さない。

 これまで組織的な妨害は伝えられていないが、問題はむしろ選挙の公正さを保障すべき立場にあるトランプ氏の言動だ。

 競り合っている州の郵便投票について、集計を止めさせたいと示唆した。根拠も示さず「詐偽だ」と公言し、裁判闘争にもちこむ構えも示した。

 もちろん、法が定めた範囲内で再集計を求める権利は、どの候補にもある。各州の結果について、司法の場で異議を申し立てる権利も否定されるものではない。

 ただし、どの1票も平等に扱うのが大前提だ。正当に投じられた大量の郵便投票を集計せずに除外するよう大統領が求めるのは、言語道断である。

 大統領がそう発言した場で、ペンス副大統領が、すべての票の集計を待つ旨を言明したのは当然だ。民主主義のルールを顧みないトランプ氏の行動を制御する責任を、政権高官や共和党幹部は心得ておくべきだ。

 この選挙で浮かび上がるもう一つの米国の現実は、多様性の深化である。連邦下院で性的少数者の黒人男性が初当選し、難民出身の女性が再選されたほか、各地で中南米系の移民票の存在感が増した。

 トランプ氏はこれまで移民らに門戸を閉ざす姿勢が目立ったが、米国社会の多様化は止めることのできない潮流だ。必要なのは、排外ではなく寛容な包摂をめざす指導者であることが、いっそう鮮明になっている。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら