ハザードマップを活用し、自分の住む街を襲う災害をイメージする。施設やインフラを整備して、避難訓練を怠らない。それが防災・減災の基本だ。

 日本の提唱で国連が制定した「世界津波の日」だったきのう5日も、この考えに沿ってさまざまな活動が行われた。

 だがそれでも、ひとたび災害が起きれば立ち直るのは容易ではない。そこで提唱されているのが「事前復興」だ。

 被災する前から復興計画を準備しておこうという試みで、いざという時に混乱を最小限に抑え、復旧・復興を進めやすい。重要な施設をあらかじめ移転しておくなど、安全・安心な街づくりへの出発点にもなる。

 紀伊半島の西にある和歌山県美浜町は、南海トラフ地震で津波避難対策の特別強化地域に指定された自治体の一つだ。昨春作った復興事前準備計画には、仮設住宅の整備、災害廃棄物の処理、周辺自治体との調整のあり方などが盛り込まれた。

 「将来の街づくりへの訓練」と位置づけ、大学や県、都市再生機構などと協議を重ねた成果だという。新型コロナの感染状況を見極めたうえで、住民への説明を本格化させる。

 駿河湾にのぞむ静岡県富士市は、13年度から事前復興計画に取り組んできた「先進地」だ。予想される被害の程度などによって市内を三つに分け、復興を進める。通常の避難訓練とは別に「復興まちづくり訓練」を地区ごとに行い、住民が市職員とともにまち歩きをして課題を点検するなどしている。

 国土交通省の指針は、具体的に検討・実施すべき項目として、復興に向けた体制づくり、手順の策定、土台となる基礎データの分析など五つをあげる。自治体相互で知恵を共有し、浸透を図りたい。

 公共施設の高台移転を進めている自治体も近年目につく。

 南海トラフ地震で30メートル超の津波が想定される高知県黒潮町は、保育所や町役場を移した。本州の最南端・潮岬のある和歌山県串本町は、病院や消防などに続き、新たな役場庁舎を建設中だ。国が補助を手厚くしてきたことが後押ししている。

 一方で住居移転のハードルは高い。東日本大震災後には集落の移転に国の防災集団移転促進事業が使われたが、被災前の適用例はない。住民の経済的な負担が大きく、静岡県沼津市のある地区は断念に追いこまれた。

 私有財産である住宅への公費投入にはかねて異論があり、被災した家屋への公的支援がようやく広がり始めた段階だ。公共施設の移転先に公営住宅を用意するなどの方法で、「住」の確保を工夫したい。