(社説)「地域の足」確保 競争と協調で工夫を

社説

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 人口減に加えてコロナ禍による乗客の落ち込みで、公共交通機関、特に規模の小さい地方の事業者が難局にある。住民の足をどう守るか。行政の財政支援だけでなく、ライバル関係にある事業者の協調に基づく新たな試みに注目したい。

 地域ごとに路線を定める乗り合いバスでは、一定の条件のもとで独占禁止法の適用を除外する特例法が11月末に施行される。事業者の合併促進のほか、ダイヤや運賃を事業者間で直接調整したり、運賃をプールしてから配分したりする行為が「共同経営」として認められる。

 乗り合いバスを巡っては、県庁所在地の中心部など収益が見込める地区で複数の事業者が激しく競う一方、それが各社の体力を弱め、不採算路線からの撤退を加速させかねない危うさが指摘されてきた。新しい制度は、競争が著しい路線で減便や撤退を促し、応じた事業者に運行収入の一部を回すといった対策が念頭にある。

 2000年代以降、乗り合いバスの分野も鉄道や航空、タクシー業界と同様、規制緩和による競争を基本としてきただけに、政策の大きな修正と言える。全国の事業者の7割で地域の路線バス事業が赤字(18年度、国土交通省調べ)という現実が背景にある。

 とはいえ、競争が抑えられれば、運賃の上昇といった不利益を乗客が被りかねない。共同経営は事業者が国交省に計画を提出し、同省が公正取引委員会と協議した上で認可する仕組みだが、事業者も不採算路線の維持に努める責任を自覚し、説明を尽くす必要がある。

 熊本県では今年初め、五つのバス会社が独禁法特例法の成立を見越して具体策の検討を表明した。深刻な運転手不足も各社の背中を押したという。広島市に拠点を置く事業者も、自治体の関与のもとで路線の再編や共通定期券の発行などの実績があり、さらなる取り組みに関心を寄せている。どこまで「共同経営」に踏み込むか、他の地域の参考になりそうだ。

 ただ、競争が過熱する収益路線自体がないところも多い。

 特例法の制定と並行して、地域公共交通活性化再生法が改正された。自家用車による有償運送の強化や物と人の混載輸送の手続き円滑化が進む見込みだ。スクールバスや商業施設の送迎バス、NPOによる福祉目的の輸送を多目的に活用していくことも課題になる。

 活性化再生法では、自治体と事業者、住民らでつくる協議会で地域公共交通計画を策定することが求められている。国の役割は、現場発の工夫を財政や制度改正を通じて支えることだ。

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