(社説)待遇格差訴訟 是正への歩み止めるな

社説

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 訴えが退けられたからといって、働く環境の改善に向けた歩みを止めてはならない。

 非正社員に対する待遇格差の当否が争われた二つの裁判で、最高裁はきのう、企業側が賞与や退職金を支払わなかったのは不合理とまではいえないとする判決を言い渡した。

 いずれについても、正社員との間で、仕事の内容や責任、配置転換の有無に一定の違いがあることや、それぞれの企業で人員整理人事制度の見直しが行われていたことなどを理由に、処遇の差異を正当化した。

 働く者より経営側の事情を重くみた感は否めず、曲折を経ながらも進んできた格差是正の動きに水を差さないか心配だ。

 一方で、今回の結論がすべての労働現場に当てはまると考えるのは大きな間違いだ。働いた対価の後払いか業績に連動した報酬かなど、賞与や退職金の性質や算定方法は企業によってさまざまだ。裁判所がそうした事情を精査・検討した結果、格差が不合理にあたると判断する場合ももちろんある。

 厚生労働省が2年前に定めたガイドラインも、会社の業績への貢献に応じて支払う賞与については「同一の貢献には同一の支給を」と明記している。各企業は今回の判決を都合良く解釈することなく、自社の制度が均衡原則にかなうものになっているか、不断に点検し、必要に応じて見直す必要がある。

 今回の退職金をめぐる訴訟では、2人の裁判官が「企業は労使交渉などを通じて、労働者間で均衡のとれた処遇を図っていくことが法律の理念に沿う」との補足意見を表明。非正社員にも在職期間に応じて一定額の退職金を支払うことや、企業型確定拠出年金の活用に言及した。労組の姿勢も問われる。

 いまや非正規の働き手は雇用されている人の4割弱を占める。しかし賃金水準は正社員の6割程度と言われ、欧州諸国の7~8割に及ばない。

 一人ひとりが確かな生計を営むことが安定した社会につながる。非正社員の待遇の改善・底上げは、社会全体の要請であることを忘れてはならない。

 ところが実際は、非正規で働く人々への理不尽な仕打ちは一向になくならず、このコロナ禍でも休業手当が払われなかったり、テレワークが認められなかったりする問題が噴き出した。

 誰もが納得できる透明性の高い賃金体系や職場環境の整備・充実は、企業にとっても、良い人材を確保し、生産性を高めることにつながる。

 この国から「非正規」という言葉を一掃する――。内閣が代わっても、この目標に向けた取り組みの大切さは変わらない。

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