(社説)戦争の伝え方 「炎上」の教訓踏まえて

社説

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 若者たちに歴史を伝えることの意義と難しさ。その双方を改めてかみしめながら、明日につながる教訓を引き出したい。

 75年前にSNSがあったらという想定で、原爆投下の前後にあった出来事や見聞きした話、その時の思いなどを連日投稿する、NHK広島放送局の企画「1945ひろしまタイムライン」が批判を浴びた。

 注釈のないまま「朝鮮人の奴(やつ)ら」といった言葉がツイートされ、差別を助長するとの指摘が多数寄せられたのだ。素材となる日記を提供するなどして企画に協力した男性が、差別意識の持ち主であるかのような誤解も生まれ、NHKは謝罪した。

 戦時中の人々の息づかいを、新しい手法を使って、幅広い世代に伝えようとしたせっかくの試みだったのに、十分な配慮と説明を欠いた結果、想定外の事態を引き起こしてしまったのは残念というほかない。

 テレビでは、企画と連動した番組も放送された。10代の若者らが、当時13歳だった男性の日記どおり、20キロの米をかついで同じ道を歩き、あるいは防空壕(ごう)を掘ってみて、当人の気持ちを想像して投稿文を作る。男性が違和感をもてば、それが何に由来するものかをその頃の社会状況を踏まえて説明し、両者の間の溝を埋めてゆく。そんな様子を取材した好番組だった。

 だがツイッターでは、こうした肝心な部分は切り落とされ、背景や文脈を離れて断片的な表現が流通し、炎上する。SNSの特性を踏まえた、より丁寧な発信を心がけるべきだった。

 戦争の伝承は社会全体で取り組んでいかねばならない重要な課題である。NHKは企画に取り組んだ問題意識や反省点を視聴者と共有し、今後にいかす道を考えてもらいたい。

 今回、差別的な記載がまず問題となり、それが日記にはない表現だとわかって批判が広がった。根拠のある話か創作か、全体にわかりにくい仕掛けだったことが混乱を深めた。作り手側の責任は免れないが、一方で、史料や証言を踏まえ、行間や余白にひそむ当時の空気に迫ろうとした企画の試み自体は否定されるものではないだろう。

 社会の風潮も、人々の価値観も異なる時代のことを理解するのは容易ではない。専門家の助言も受けながら、歴史の実相に迫る工夫を凝らしたい。

 戦争を知る年代が相次いで鬼籍に入る時代になった。じかに話を聞く機会が失われていくなか、戦争の記憶を次世代に確実に引き継ぐことが求められている。そのためにはどんな手段が有効か。試行錯誤を重ねながらそれを探るのも、新聞を含むメディアの務めだ。

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