(社説)水害時の避難 安心できる場の確保を

社説

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 避難所にやってきた住民全てを受け入れることができない。そんな例が最近相次いでいる。

 早期避難の呼びかけが浸透してきたのに加え、コロナ対策で「密」を避けようと、定員を減らす動きが広がっているためだ。台風シーズンはまだ続く。自治体は態勢を再点検し、風雨と感染症の双方から人々を守るために必要な措置をすみやかに講じてもらいたい。

 台風10号が九州に接近した今月6日、長崎市は260カ所に避難所を開設し、49カ所が満杯となった。現場では、市職員が訪れた市民に別の避難所を案内したり、近くの公共施設を開放したりして対応した。

 熊本市でも145の避難所のうち26カ所で定員を超えた。6日夕方に「避難指示」が出た後は、安全を優先してそのまま受け入れたという。

 大きな混乱がなかったのは幸いだ。昨秋に台風19号が関東を襲った時も、東京都内の避難所が人であふれ、一部の住民が移動を余儀なくされた。途中で風雨が強まれば事故に巻き込まれる危険が高まる。コロナ禍の今は、以前にも増して十分な受け皿を用意しておく必要がある。

 東京都多摩市はIT企業と協定を結び、避難所の混雑情報を提供するサービスをこの夏から始めた。特定の避難所が過密にならないよう分散化を促すねらいで、ネットで「満員」「やや混雑」「空きあり」といった状況を確認できる。群馬県桐生市宮崎県日南市も同種のシステムを採用している。

 一昨年の西日本豪雨で大きな被害が出た愛媛県宇和島市は、分散避難を後押しするため、今年5月に宿泊費の補助制度を創設した。障害者や75歳以上の高齢者がいる世帯が、指定したホテルなどに避難した場合、1泊最大5600円を支払う。

 いずれも他の自治体の参考になる取り組みといえよう。

 国は今春、避難先としてホテルや旅館を借り上げるよう自治体に呼びかけ、財政支援も打ち出した。コロナ対策として始めた措置だが、多様な避難場所を確保することにつながる。コロナ禍が収束した後も事業の継続を検討してはどうか。

 台風10号の時は自らホテルを手配した人も多かった。対象や補助額に条件を付けつつ、こうした自主的な避難行動を後押しする仕組みも広がってよい。

 徐々に改善されてきているとはいえ、体育館での雑魚寝やプライバシーの欠如が、被災者の心身の健康を害しているとの指摘は絶えない。大規模災害は毎年のように起きている。住民が安心できる良質な避難環境をどう整えるか。重要な政策課題と位置づけ工夫を重ねてほしい。

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