(社説)陸上イージス 首相主導が招いた迷走

社説

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 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画は、導入ありきで突き進んだ安倍首相の姿勢にこそ問題があったのではないか。

 この点に焦点をあてることなく、断念の経緯だけを対象にした中途半端な検証を区切りとして、前のめりな議論を続けてはならない。

 陸上イージスの導入は、安倍政権が17年末に閣議決定し、18年5月、秋田、山口両県の演習場が配備候補地に選ばれた。しかし、河野太郎防衛相が今年6月、迎撃ミサイルから切り離されたブースターが住民に被害を及ぼさないようにする対策に、費用と期間がかかりすぎるとして計画の停止を表明した。

 防衛省が先週公表した検証報告からも、導入を急ぐあまり安全対策が後回しになったことは明らかだ。地元に説明を始めた時点では「何らかの安全措置は必要との認識」はあったが、「具体的な検討には至らなかった」という。

 住民から懸念の声があがり、米側とも協議に入ったが、根拠が十分でないまま、システムのソフトウェアの改修で対応可能と判断。その後も安全性を強調し続けていた。

 見過ごせないのは、首相案件であることに遠慮してか、不都合な情報を上にあげなかった対応である。今年の早い時期に、ミサイル本体を含むシステム全体の大幅な改修が必要との懸念が判明したにもかかわらず、当時の事務次官は6月初めまで防衛相に伝えていなかった。

 計画遂行にかかる重大な情報を数カ月もトップが知らなかったことを、報告は「風通し」の問題とした。認識が甘すぎる。ブースターは米側が設計・開発しており、「防衛省として検証に限界があった」という記述もあまりに無責任だ。

 陸上イージスは米国製兵器の大量購入を求めるトランプ大統領との関係を重視し、費用対効果の検討も尽くさぬうちに、首相主導で決めたとされる。そのことが迷走を招いたのではないか。導入決定に至る経緯も検証されねば、今回の大失態の全体像はつかめない。

 その首相は、陸上イージスの代替策に加え、敵のミサイル基地をたたく「敵基地攻撃能力」の保有について、次の政権で検討を継続し、年内に結論を得るとする談話を近く公表する方針だという。日本の安保政策の大きな転換につながりかねないというのに、退陣する首相が議論の期限を区切るなど不見識だ。

 政権の何を引き継ぎ、何を改めるのか。吟味が必要なのは、防衛政策も同様である。きょう告示される自民党総裁選での徹底した議論を求める。

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