(社説)WTOトップ 空席解消し機能回復を=訂正・おわびあり

社説

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 世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥っている。上級委員会による紛争処理が昨年末に停止したのに続き、職員を率いる事務局長のポストも9月から空席になった。貿易立国の日本にとってWTOは大切な存在だ。機能回復に向け、日本政府は力を尽くさねばならない。

 WTOの混乱の一因は、米国の無責任な対応にある。米政府は、自国に不利な判断を下すこともある上級委を問題視。退任する委員の補充を拒み続け、昨年12月には、委員数が手続きに必要な3人を下回った。

 アゼベド事務局長は事態の打開に努めたが、今年5月に突如、任期を1年残して8月末に退任すると発表。米中対立が続くなか、4人の次長から代行を選ぶこともできず、異例のトップ不在に追い込まれた。

 戦後の世界経済の発展の土台だった貿易の拡大はいま、大きく揺らいでいる。

 もともと米中対立で貿易量が減少していたところに、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が直撃し、保護主義的な動きが広がっている。WTOの4月の調査では、80カ国・地域が、マスクなどの医療品や食料の輸出を制限していた。

 コロナ対策には世界各国の協力が欠かせない。貿易のルールを定め、それが守られているか監視する役割を担うWTOの機能不全は、一刻も早く解消する必要がある。

 WTOでは、新興国途上国と主要国とが激しく対立し、多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が頓挫。デジタル化など新たな課題に対応するためのルールもつくれなくなっている。貿易交渉の中心は二国間や地域の協定に移り、WTOは存在意義を問われる状況だ。

 次期事務局長は、行き詰まった組織の再活性化という難題に向き合うことになる。8人が立候補した。意見が異なる国をまとめる調整力が必要と考えられ、それぞれの国で重要閣僚の経験がある、ナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相とケニアのアミナ・モハメド元外相の2人が有力視されている。どちらが就いてもアフリカ出身者初、女性初となる。

 国際機関では、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が中国との関係に疑念を持たれて求心力が低下した。早ければ10月中に決まるWTOの事務局長の選考では、各候補者の中立性も問われよう。

 だれがトップに選ばれても、世界第一の経済大国である米国が背を向けたままでは、事態の改善は難しい。「米国第一」にとじこもらず、山積する課題をともに解決するよう、日本は粘り強く働きかけるべきだ。

 <訂正して、おわびします>

 ▼7日付社説「WTOトップ」の中で、「国際保健機関(WHO)」とあるのは、「世界保健機関(WHO)」の誤りでした。

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