(社説)コロナ分科会 役割分担 政府は明確に

社説

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 政府のコロナ対策の混迷が続く。相手は未知のウイルスであり、感染防止と経済活動の両立という難題を前に、試行錯誤があるのはやむを得ない。人々の不信を広げているのは、いかなる根拠に基づき、どんな議論を経て、その政策をとったのかの説明が十分でないことだ。

 強行された観光支援策「Go To トラベル」はその顕著な例だ。感染症や経済の専門家らでつくる政府の分科会の尾身茂会長は先月末、国会で「開始の判断に時間をかけるよう政府に提言したが、採用されなかった」と明らかにした。

 政府が分科会の考えと違う決定をすることはあっても良い。ただしその場合は、理由を丁寧に説明し、生じる結果を引き受ける姿勢を明確に示す必要がある。しかし政府が発表した資料は、東京発着の旅行を除いて実施することを分科会の側から提言したと読める記載になっている。人々を誤導するものと言わざるを得ない。

 分科会の役割は、対策を検討し、政府に「意見」を述べることと定められている。お墨付きを与える場ではないし、ましてや政策を決める機関でもない。ところが発足から1カ月が経つのに両者の関係はあいまいで、政府は分科会を都合のいいように使い、分科会もそれを容認してきたように見える。

 思い起こすのは、分科会の前にあった専門家会議の提言だ。現状の分析・評価をもとに提案するところまでが助言組織の役割であり、政策を決め、責任を負うのは政府だ。その役割分担を明確にすべきだ――という内容だった。尾身会長をはじめ、専門家会議から分科会に移ったメンバーも多い。自らの提言を踏まえ、政府との位置づけを改めて整理し直すべきだ。

 分科会の運営をめぐっては他にも改めるべき点がある。

 自由な意見交換を理由に会議は非公開とし、終了後、発言者名を記した議事概要を作ることになっている。ところがまだ一つも公表されていない。いかにも遅く、透明性を欠く。

 会議で用いた資料を公開するだけでなく、メンバーからどのような分析や問題提起があったのかを速やかに明らかにし、社会全体で議論を深めたり、それぞれの現場で独自の対策をとったりする材料とするべきだ。

 コロナ対策の効果を検証するために設けられている国のアドバイザリーボードも、黒川清委員長や山中伸弥京大教授ら委員4人の連名で、専門家と政治の役割分担を整理し、透明性の高い議論をするよう提言した。

 専門知に学び、尊重しつつ、政治が決断し、逃げない。政策への信頼はそこから始まる。

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