(社説)NHK経営委 なぜ議事録を隠すのか

社説

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 視聴者・国民を愚弄(ぐろう)する許し難い行いだ。NHKの経営委員会は直ちに非を認め、本来とるべき道に立ち返るべきだ。

 かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組をめぐり、経営委が18年10月に当時の上田良一会長を厳重注意した問題である。

 会長のガバナンス(統治)不足が理由とされたが、実際は、関係者のささいな言葉遣いのミスなどを口実にして、放送法が禁じる経営委による番組介入が行われたのではないか。そんな疑念が持ち上がった。

 経営委が議事録の公開を拒んだのに対し、NHK自身が設けている第三者機関は今年5月、「今後の経営委の審議やNHKの事業活動に影響はない」と判断し、全面開示するよう答申した。これを受ける形で先月31日付でホームページに「追記」が掲載されたが、それは議事録とはかけ離れた代物だった。

 番組について委員から「作り方に問題がある」「(内容が)一方的」といった意見が出たとあるが、断片的で、誰が、どんな文脈で発言したのかは一切わからない。朝日新聞の取材で、その場で上田会長が、厳重注意に至る経緯が表に出れば「NHKは存亡の危機に立たされる」という趣旨の発言をしたことが明らかになっているが、それも記載されていない。

 経営委事務局は「答申にこたえることとし、開示した」というが聞いてあきれる。答申は、経営委には説明責任があり、今回の問題について各委員がどんな意見を持ち、どのような議論が行われたかについては「より強く透明性が求められる」と述べている。しかしこの当然の指摘はほごにされ、視聴者の知る権利は損なわれたままだ。

 委員長代行として厳重注意を主導した森下俊三現委員長を始めとする全メンバーは、改めて答申を熟読し、その説くところを十分理解する必要がある。

 経営委が踏みにじったのは情報公開制度だけではない。

 放送法に基づき設置されているNHKの監査委員会は、かんぽ報道をめぐる対応に「瑕疵(かし)はなかった」と報告しているが、経営委はこれにも耳を傾けなかった。NHKの適切な運営のために用意されている仕組みを、最高意思決定機関である経営委が事実上無視する。ガバナンスに問題があるのはむしろ経営委だ。こんなことでは無用の政治介入も招きかねない。

 経営委は来年度以降の中期経営計画づくりを進めており、きょうも会合が開かれる。公共放送の将来を左右する議論をしようという時に、自らのあり方に深刻な疑義が突きつけられている。その認識と自覚を持てない委員は早々に職を辞すべきだ。

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