(社説)予算概算要求 「緊要」の精査が必要だ
青天井の要求で、政府の予算がいたずらに膨張しないか。年末の来年度予算編成に向け、不安が拭えない。財務省が示した概算要求のルールのことだ。
政府は例年、各省庁の予算要求を抑えようと、概算要求基準を閣議で了解してきた。例えば昨年は、公共事業などの「裁量的経費」をいったん前年度比で1割減らすよう求めた。
ところが今年のルールは閣議了解ではなく、単なる財務相の閣議での発言だ。しかも各省庁は基本的に、前年度と同額までの要求が認められる緩さだ。
さらに新型コロナウイルス対策などの「緊要な経費」については、別枠で上限無しに要求できる。
麻生太郎財務相は上限を設けない理由について、「(コロナ対策に必要な予算を)現時点でいくらと予見するのは難しい」と説明する。
確かに、感染状況は1カ月先も見通せない。今の段階でコロナ関連の要求にたがをはめるのは、現実的ではないだろう。
問題は、あらゆる事業が「緊要な経費」とみなされかねないことだ。政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)では、「『新たな日常』が実現される地方創生」との位置づけで、地方の道路や整備新幹線の整備が盛り込まれた。
熊本県南部を中心とした豪雨をきっかけに、防災・減災予算の上積みも「緊要な経費」に含まれるだろう。
実質的に、どんな予算でも無制限に要求できることにならないか。不要不急の予算の削減を迫る仕掛けも無いため、必要性が下がった事業の見直しも期待できない。
コロナ禍に対応する各省庁の作業負担に配慮し、概算要求の提出期限は例年より1カ月遅い9月末とされた。それから年末までの短期間で、メリハリのある予算に仕上げるには、政治の強いリーダーシップで利害を調整することが求められる。
その難題に取り組む覚悟が政権にあるのか、心もとない。政治的に調整が難しい問題は今回手をつけず、軒並み年末に先送りされたからだ。例えば毎年予算編成の要となる社会保障費でも、昨年は「増加を高齢化による伸びにおさめる」としていた方針を、今年のルールには盛り込んでいない。
一連のコロナ対策では、官邸主導で決めた現金給付や旅行支援策などが世論の反発を招き、見直しに追い込まれた。
国民が納得できる予算にするには、それぞれの政策が本当に「緊要」というほど大切で必要なのか、透明性がある場で議論を尽くさねばならない。そのことを政権は肝に銘じるべきだ。