(社説)選挙の活性化 愛知発の試みに注目

社説

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 愛知県の東部、人口約4万5千人の新城(しんしろ)市で全国初というユニークな条例が施行された。

 次の市長選から、立候補予定者による「公開政策討論会」を市が主催して開くこととし、その手続きなどを定めた条例だ。予定者の政策とそれを実現する方策について、市民の理解を深めるのが目的とされる。

 民主主義を実のあるものにするには、有権者一人ひとりが選挙に関心をもち、自分たちのリーダーを責任をもって選ぶことが欠かせない。この試みがどんな効果を上げるか。他の自治体はどう反応するか。今後の動きに注目したい。

 同市では長年、地元の青年会議所(JC)が討論会を開いてきた。だが会員数が減って支えきれなくなり、17年の前回市長選では立候補予定の3陣営共催で何とか実施にこぎつけた。

 条例はこれを「公営化」するもので、▽告示前日までに行う▽参加するか否かは立候補予定者が判断する▽日時や場所は、有識者らの意見を聞いて市長が決める▽議題の決定にあたっては各予定者からの提案を尊重する、などとなっている。

 政治に興味があっても、候補者の人柄や細かな政策を知るのは容易ではない。選挙公報は抽象的な訴えが並ぶ場合が多いし、陣営が個々に開く演説会に出向くのは結構な負担だ。

 これに対し公開討論会が催されれば、人となりを肌で感じる機会が増える。地域のケーブルテレビやインターネットによる中継を通じて、気軽に政見を見聞きできるようになる。

 90年代に始まった公開討論会だが、近年減る傾向にある。活動を支援するリンカーン・フォーラムによると、統一地方選参院選が重なった07年に233件開かれたが、同じ条件だった19年は144件にとどまった。

 進行がパターン化して緊張感が薄れたり、参加しない候補者がいたりすることに加え、中心的な役割を担ってきたJCの取り組みに、地域によって差が出てきたという事情がある。

 「公営」には懸念もつきまとう。現職市長やその後継者に対し、有利な取り計らいがされないか。条例で公平公正をうたっても、かけ声倒れに終わるのではないか――などだ。

 外部識者の意見も採り入れた周到な準備が求められるが、もしゆがんだ運営がされれば、その事実も含めて市民が投票の判断材料とし、市側に改善を迫ることが必要となろう。

 大切なのは、候補者を比較・吟味する多様な機会をつくり、投票の質を向上させることだ。そのためにどんな知恵を出し、工夫を凝らすか。自治体間で競い合ってもらいたい。

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