(社説)中国とインド 成長大国の責任自覚を

社説

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 中国とインドとの長年に及ぶ国境問題が再燃している。

 ともに約14億人の人口を抱え、核兵器を保有する大国である。ぶつかり合えば、世界全体を揺るがしかねない。両国は最大限の自制に努めるべきだ。

 中国西部チベット自治区とインド北部ラダック地方との国境地帯で、両国軍部隊の衝突があり、死傷者が出た。国境問題をめぐる衝突の死者は1975年以来、45年ぶりだという。

 さらなる衝突には発展していないものの、両軍は5月にも小競り合いをおこしていた。事態の推移を注視せざるをえない。

 中印は核だけでなく、それぞれ世界1位と2位の巨大な兵員数を持つ。高い成長率で世界経済の牽引(けんいん)役を果たしてきた代表的な新興国でもある。大国としての責任の重みを両政府は深く自覚すべきだろう。

 コロナ禍を受けて各国は対応に追われ、国際社会はいつにも増して協調を必要としている。国境の山岳地帯で、もめている余裕などないはずだ。

 ところが、中国は南シナ海東シナ海でも、挑発的な行動を周辺国に繰り返している。インドは昨年、パキスタン領有権を争うジャム・カシミール州の自治権の剥奪(はくだつ)を一方的に発表し、緊張を高めた。いずれも不毛な振るまいである。

 今回の事件を受け、ナショナリズムを刺激された両国の一部の世論は、政府に強硬対応を求めているようだ。

 しかし、両国政府は事態をしずめる対話を加速させなければならない。係争地における危機管理メカニズムづくりなど、偶発的な軍事衝突を避けるための方策を探ってもらいたい。

 中印関係は1950年代末のダライ・ラマ14世のインド亡命や中ソ対立の影響で悪化し、62年には国境をめぐり軍事紛争をおこした歴史がある。そのため今でも安全保障では、相互不信が根強く残っている。

 ただ近年の両国関係は、実利重視の側面も強い。冷戦後に経済交流は活発化し、今では中国はインドの最大級の貿易相手国だ。インドは日本や米国と一線を画して、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟国にもなっている。

 日米は「自由で開かれたインド太平洋」構想への参加をインドに呼びかけている。しかし、その狙いが単なる対中包囲網づくりならば、全方位外交を志向するインドの十分な理解を得るのは難しいだろう。

 インド洋から太平洋まで、どの国も利する平和と安定のために「法の支配」の秩序を強化する。日本はそんな普遍的な考え方を強調しつつ、中印双方の緊張緩和を促していくべきだ。

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