(社説)マイナンバー 性急な議論は危うい

社説

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 個々の市民の預貯金口座に関する情報とマイナンバーを、政府が一緒に管理できるようにしようという議員立法の法案を、自民党がまとめた。

 新型コロナウイルス対策の国民への一律10万円の給付で、マイナンバーカードによる電子申請が混乱したことから浮上した。対応に追われた自治体の現場は疲弊しており、次の機会に備え何らかの改善策は必要だ。ただ、マイナンバーの扱いは、慎重に考える必要がある。性急に議論を進めてはならない。

 現金給付の電子申請の現場はこんな具合だ。

 暗証番号の入力ミスによるカードのロックを解除するのに、窓口に長い列ができる。市民が入力したデータのチェックとミスの修正に職員は追われる。混乱の中で二重給付も発生した。結局、電子申請を取りやめる市区町村も相次いでいる。

 2016年に運用を始めたマイナンバーのシステムには、これまで計3千億円超の国費を投じている。にもかかわらず、この事態を招いた政府の責任は重い。

 予算成立から1カ月経って、ようやく給付を始めた自治体もある。ドイツカナダのように、電子申請をした数日後にはコロナ対策の給付金を手にした国があるのとは対照的だ。

 迅速な給付が難しい理由は、事前に振込口座を登録していないため、手作業による入力や確認で時間がかかったことだ。

 自民党が今国会への提出を目指している案は、任意で給付用口座を登録してもらい、マイナンバーなどとともに政府が管理するという内容だ。同意した人の給付用口座をあらかじめ把握しておけば、今回のような緊急時に、その人たちへの現金給付がスムーズに進むだろう。

 問題は、自民党がさらに、すべての口座についてマイナンバーの届け出を義務づける法案を1年以内に作るよう政府に求めたことだ。希望者の給付用口座の登録と、全口座をマイナンバーと結びつけることは、全く別問題だ。延長線上にあるかのように扱うのは筋違いである。

 全口座を政府が把握する仕組みの導入は、過去に何度も議論されたが、プライバシーが侵されるのではないかという国民の根強い不安から、頓挫してきた。コロナ禍に乗じるようなやり方は許されない。

 マイナンバーは、税制や社会保障を支えるツールとなりうる制度である。しかしその前提として、一人一人の情報を管理する政府が、国民に信頼されていなければならない。その条件は整っているのか。制度の手直しを考えるのであれば、まずはそのことを問い直すべきだ。

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