(社説)プーチン20年 権力の私物化いつまで

社説

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 ロシアのプーチン大統領は、あすの7日で就任20年になる。異例の長期政権だが、その上さらに任期を延ばせるようにする憲法の改正をめざしている。権力の私物化というほかない。

 プーチン氏はことし1月、最初の改正案を示した。大統領任期の上限を2期とし、退任後の再登板を禁じる。その内容だけなら穏当だっただろう。

 ところが3月、世界初の女性宇宙飛行士として知られるテレシコワ下院議員の提案で、改憲を機に現職の任期をリセットする修正が加えられた。

 プーチン氏の今の任期は2024年までだが、これが最長12年間延ばせることになる。

 突然の提案が政権の意を受けたものだったことは明らかだ。「周りから求められた」という体裁を整えて自らを例外扱いする手法は、姑息(こそく)であるだけでなく、国家権力の恣意(しい)的な行使を憲法が規制する立憲主義のあり方をゆがめるものだ。

 改憲が実現しても、プーチン氏が24年に大統領5選を目指すかどうかは分からない。だが、少なくとも、ぎりぎりまで影響力を保てるのは間違いない。

 90年代に経済的混乱や大規模テロに見舞われ、ほとんど無法地帯と化したロシアの秩序を立て直したプーチン氏の功績は、否定できない。国民からの評価も、国を安定させたことに大きな理由があった。

 だがプーチン氏はいつのまにか、国の安定と自らの立場の安定を混同してしまったようだ。

 20年間も国を率いながら、公正、透明な競争によって後継者が国民に選ばれる制度と環境を整えてこなかった責任は重い。

 改憲案では「神への信仰」への言及や、「男性と女性の結びつき」としての婚姻など、国内の多数派を意識した内容も目立つ。目先の人気取りにはたけている一方で、長期的、歴史的な展望に欠けるのは、プーチン氏の政権運営の特徴だ。

 対外政策もそうだ。14年のクリミア半島併合は国内で歓迎されたが、欧米や近隣国との関係を修復困難なまでに傷つけた。

 今回の改憲案を問う国民投票は、コロナ禍で延期を余儀なくされた。石油価格の下落に伴い通貨ルーブルも暴落した。天然資源頼みの経済構造から脱却できない実態が浮き彫りになり、支持率は下落傾向だ。国民の向ける目は厳しさを増す。

 プーチン氏は大統領就任前には、ドイツのコール政権を評して「1人の指導者が16年も続けばどんな国民もうんざりする」と語っていた。

 自身の言葉を思い起こして、歴史的な評価に堪える身の処し方を考える時に来ているのではないか。

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