(社説)病院の再編 丁寧な合意の形成を

社説

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 厚生労働省が再編統合の議論が必要とみる424の公立・公的病院の名前を公表したことに、自治体などから批判が相次いでいる。地域での議論を活性化する狙いだったが、むしろ停滞しかねない状況だ。

 人口の減少や高齢化といった社会の変化に応じ、病院のベッド数や機能を見直すことは避けられない。勤務医過重労働が当たり前になっている医療現場の現状を改めるためにも、地域の医療提供体制を再構築することは待ったなしである。

 しかし、反発を招いて肝心の議論が進まなくなったのでは元も子もない。厚労省は批判に向き合い、建設的な議論ができる環境を整えてほしい。

 各都道府県は、団塊の世代が75歳以上になる25年を目標に、必要となる病床数を推計して地域医療構想をまとめている。だが、再編統合などの議論は思うように進んでいない。

 このため厚労省は、全国の公立病院日本赤十字社などの公的病院を対象に診療実績を分析。がんの手術や救急など高度な医療の診療実績が乏しいか、車で20分以内の近距離に似た機能の病院がある所を、再編統合の議論が必要だとして、病院名を公表した。

 ただ、分析に使ったデータは17年度のもので、名指しされた病院の中には、すでに病床を減らすなどの取り組みを始めている所もあった。診療実績が少ないとされた病院の中には、山間地などで地域の医療を支えている所もある。

 見直しには、ベッド数の縮小や、急性期中心の医療から回復期中心への転換なども含まれるが、一律の名前公表は、対象の病院が全てなくなるような印象を与え、不安と混乱を広げた。議論を促すために客観的なデータを提供するのは悪くはないが、丁寧さを欠いていたことは否めない。

 名前が挙がらなかった病院が改革に後ろ向きになる懸念も出ている。公表病院だけが見直しを求める対象でないことなど、厚労省の十分な説明が必要だ。

 そもそも全国の病院の約7割は民間病院だ。客観的なデータに基づいて開かれた議論をするのであれば、民間病院も含めて検討すべきである。

 病院の再編は国が強制できるものではない。人口が減るなかで地域の医療を維持し、住民が安心して暮らしていけるようにするには、どんな病院がどれだけ必要なのか。都道府県が中心となって地域ごとに将来像を描き、丁寧に合意を形成していくほかない。

 厚労省の役割は、議論に資する情報を提供することだ。危機感を共有し、議論を進めたい。

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