駐留費、米「搾り取る」 同盟国へ負担増要求

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 トランプ米政権が、在日米軍の駐留経費について、大幅な負担増を日本側に打診してきた。米軍は同盟国を守るが、同盟国はふさわしい負担をしていないというトランプ大統領のかたくななまでの考えが背景にある。日米同盟は盤石と訴えてきた安倍政権にも困惑が広がる。▼1面参照

 ■大統領選へ実績急ぐ

 トランプ大統領は、米軍の外国駐留は公金の無駄遣いだというのが持論だ。

 日米関係筋によれば、トランプ氏は5月27日、安倍晋三首相との首脳会談で、日本の経費負担について「3割しか負担していない」と不満を表明。「我々は(中東の)ホルムズ海峡を通って石油を輸入していないが、海峡を守っている。日本はその間、トヨタを世界中に売ってもうけている」と語ったという。

 安倍氏が「3割はドイツだ。日本は74%も負担している」と訴えると、「心配するな。ドイツと韓国からも搾り取るから」と述べ、最後まで話がかみ合わなかったという。米国防総省の2004年の報告書によると、日本の負担割合は74・5%、ドイツは32・6%だった。

 日本側は6月の大阪市での首脳会談では、同じ議論が蒸し返されないよう、米側と防衛費負担に触れないことで事前に合意していた。しかし、トランプ氏は6月29日の記者会見で、日米安保条約を「不公平だ」と言及した。

 日本は、防衛費負担や日米同盟の実績を繰り返し説明するなど様々な外交努力を行ってきた。米国務省や国防総省は理解を示しているとされるが、トランプ氏の考えを変えることはできていないのが実情だ。

 河野太郎外相も5月の日米首脳会談後、ポンペオ国務長官に対し、日米同盟の枠組みについて「マッカーサーが決めた枠組みだ。これ以上は払えない」と伝えた。だが、ポンペオ氏も「それは75年前の話だろう」と語るばかりで、困惑した様子だったという。

 米政府関係筋は、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が7月下旬、日本と韓国を続けて訪問したことについて、「日韓の負担増を求めるトランプ大統領の強い意向を受けたものだ。大統領の考えは変えられない」と語った。

 韓国はすでに負担増を強いられている。18年に負担した米軍駐留経費は9602億ウォン(約882億円)だったが、19年は1兆389億ウォン(約954億円)に増額された。5年間だった協定の有効期間は1年に短縮され、すぐに再交渉を迫られることになった。

 来年の米大統領選に向けて、トランプ氏の同盟国たたきはさらに強まる可能性がある。支持率が40%台で伸び悩む中、トランプ氏はアピールできる実績を作るのに躍起だ。

 北大西洋条約機構NATO)の加盟国は、国防費を24年までに国内総生産(GDP)比2%に引き上げることを目標にするが、トランプ氏は「足りない。もっと増やせ」とかみついている。ただ、欧州諸国はトランプ氏と距離を置いており、「応分の負担」の実現は思うようにいっていない。

 別の米政府関係者は言う。「トランプ氏は、負担増の要求を受け入れられる金持ちで、しかもトランプ氏に『ノー』と言えない国をターゲットにして搾り取ろうとしている。それが日本だ」(編集委員・牧野愛博、ワシントン=土佐茂生)

 ■日本政府「不可能に近い」

 在日米軍駐留経費の日本側負担の大幅増を求めたボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の発言について、日本政府内では戸惑いが広がる。

 米軍の日本駐留経費のうち人件費や訓練移転費などの一部は日本が負担しており、「思いやり予算」とも呼ばれる。2004年の米国防総省の報告書によると、日本の米軍駐留経費の負担割合は74・5%と他国を大きく上回っている。19年度予算案では1974億円に上る。

 日米間では、5年間の負担額を定めた協定が21年3月末で期限を迎えるため、新たな協定を結ぶ日米交渉は来年から本格化する見通しだ。トランプ米大統領が同盟国の負担増を求める考えを繰り返し示していたことから、日本側は負担増の要求を警戒していた。

 政権幹部の一人は31日、「米軍は日本を守るためだけに駐留しているわけでなく、地政学的にも戦略的にも米国にとっても重要だ」と語り、米軍の日本駐留は、米国の安全保障上の利益にもつながっているとの見方を示した。

 清宮涼

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 <訂正して、おわびします>

 ▼2019年7月31日付夕刊1面と8月1日付朝刊1、3面で、ボルトン米大統領補佐官(当時)が日本側と会談し、在日米軍駐留経費の日本側負担について「現状の5倍」など数値を示して求めたと報じました。記事中の関連する数値の記述と、見出しの「日本は5倍負担を」(夕刊)、「『5倍』要求も」(朝刊)を削除します。米当局者らへの取材で得られた数値を、日本側に伝えられたものと誤認しました。会談でボルトン氏は大幅な負担増を求める可能性は伝えたものの、その後の取材で、具体的な数値への言及は確認できませんでした。当初の取材が不十分でした。(2020年2月22日)

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