「イノシシもおらん」リニア工事で枯れた水、歩いて見えた地方の怒り

名古屋報道センター・米田怜央 2023年入社 防災・交通担当
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 先月、入社以来2年間履き続けた仕事用の靴を買い替えた。ハイキング用のしっかりした作りのスニーカーだったが、履き口はゆがみ、ソールのかかとと母指球の部分はすり減って平らになった。

 名古屋を拠点に、東海地方の集落を歩いて住民に声をかけてまわる取材が多かった。現地へ足を運び、歩いて、休憩して、また歩く。そのたび、土地の歴史や魅力、時に都会に振り回される、地方の人たちの怒りにも触れた。

 昨年2月、中山道の宿場町だった岐阜県瑞浪市大湫(おおくて)地区の水が、突如枯れた。共同の水源や各家庭の井戸の水位が低下し、3月には300年のあいだ水をたたえた「天王様の井戸」の水も枯れた。

 原因は、近くで進むリニア中央新幹線のトンネル工事だった。JR東海は5月に工事の影響を認め、井戸水を上水道に切り替える応急措置をした。

 交通担当記者として、私は水枯れの実情を取材するため2日間、人口140人の小さな集落を歩いた。1軒1軒尋ねていくなか出会ったのが、元営農組合職員の長谷川達二さん(79)だ。

 「ここは水不足で困るもんで、昔みんなで水源を作ったんだ。あたりに水がジュボジュボあふれ出して、イノシシも泥遊びしていたのに、もうおらん。本当にひどいよ」と憤っていた。

 住民たちの水源の一つを、長谷川さんに案内してもらった。山に入り、杉林のなかを少し歩くと、斜面から顔をのぞかせる土管が見えた。石のふたを外すと、山からしみ出た濁りのない水が細い管を伝って、この土管に流れ込んでくる。

 大湫地区は、周囲を山が囲む盆地に位置しており、取水できるような川は流れていない。約60年前、夏は断水して節約しなければならないほど、水に苦労していた住民が自らの手で作った水源だ。大湫の人々が水資源の枯渇に敏感になっているのはそんな歴史があってこそだった。

 「みんなが大切にしている水。代わりの水をやると言っても、それは違う」。そう長谷川さんは口にしながら、石のふたを土管にかぶせた。

 その土地の水がいかに住民にとって大切なものか。現地で取材するまで、水道管の張り巡らされた都市部で育った私には、リアリティーの伴った想像をすることができなかった。

 住民がなぜ水に敬意を払い、脅かすものを警戒するのか。その土地を歩いて、住民と話して歴史や暮らしの様子を聞かなければ、本音は見えない。

 歩くことを通して、初めて人々の生活が立ち現れてきた。

 正確なデータや記録があれば、現場を見ずとも記事は書けるかもしれない。それでもこの目で見て、話して、記録することで初めて伝わる思いや怒りがある。春から写真記者として働く大阪でも、軽やかに現場を歩きたい。

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