第8回イチロー氏が「家」と呼ぶ施設 「世紀の実験」が偉業への道を開いた

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山田佳毅
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 JR鳥取駅にほど近い、(株)ワールドウィングエンタープライズでは、医療機器、高機能シューズと、初動負荷カムマシンを研究開発している。代表で、神経筋生理学者の小山裕史さん(68)は、その時の、イチロー氏の笑顔を今も覚えている。

 「にこっとした、子どものような笑顔でした」

 1999年の冬、プロ野球のオフシーズンに2人は顔を合わせた。

 イチロー氏は当時のオリックス・ブルーウェーブで6年連続で首位打者になり、すでに球界を代表する打者だった。

 一方、小山さんの生み出した「初動負荷理論」によるトレーニング法がスポーツ界でも認知され、トップアスリートの間に広がり始めた時期でもあった。

 負荷を与えることで体は鍛えられる。長い間、そう考えられてきた。

 小山さんは理論について説明する。

 「動作初期に与えた適度な負荷を取り除くかのように、ひねりと回転を伴う加速制限のない動作を反復する。すると、関節と筋肉ストレスを感知するセンサーが好反応し、緊張が解除され、脳と神経と筋肉の制御機能が高まる。改善しないとされていた脳血管障害の人々の機能改善や、転倒しにくさ、関節可動域の増大もその一例です」

 99年、イチロー氏の実家がある、愛知県豊山町に小山さんは招かれた。「なぜ、一般的な筋力トレーニングを積んでもけがをしてしまうのか」。イチロー氏の問いに、小山さんは、動作を高めるための、脳と神経系が介入するトレーニングの重要性を伝えた。

 イチロー氏のあどけない笑顔は、長年抱いていた疑問が、ようやく解けたことを示していた。

 会話ははずんだ。

 「アスリートの早い引退年齢…

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この記事を書いた人
山田佳毅
スポーツ部
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スポーツ

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