靖国で考えるヒリヒリ感 「歴史」共有する種火とは 東畑開人さん

有料記事社会季評

東畑開人さんの「社会季評」

 去った夏、8月15日に靖国神社へ行った。直前になって、少しだけ勉強した。近代日本は内戦に始まり、アジアで多くの戦争被害を出した先の大戦に至るまで、たくさんの戦争をしてきたから、国内にも国外にも無数の死者がいて、さまざまな立場での「傷つき」の記憶がある。だから、靖国については深刻に対立する思想があって、それらはときに衝突し、演説やデモの大きな声が境内に響くこともあった。そういう歴史を読んでから、靖国に行った。

 と書きながら、自分でも硬い文章だと思う。本当はもっと伸び伸びと書けたらいいのだけど、やっぱり難しい。靖国には人々のヒリヒリとした思いが存在しているから、私の浅い理解によって誰かを傷つけてしまいそうで、身構えてしまう。それだったら、他のテーマを選べばいいのにと思われるかもしれないが、私が今回考えたかったのはそのヒリヒリなのだから、しょうがない。

 ただ、実際に行ってみると、靖国は思いのほか、静かだった。確かに、警察の厳戒態勢は物々しかったし、政府要人を乗せた車が入構する時には騒然とした雰囲気があった。刺激的なビラを配る人や軍服に身を包む人もいた。

 だけど、大まかに言って、人々は静かに祈っているように見えた。猛暑の中、言葉少なに拝殿前に並び、心乱されることなく死者を悼み、振る舞われている冷たい麦茶を飲んでいた。演説も、デモもなかった。本当は存在しているはずのヒリヒリとした対立を、少なくともその日の私は見なかった。

 最近カップルセラピーに力を入れている。恋人や夫婦のようなカップルと私の3人で行うカウンセリングのことだ。話は靖国から大きく飛ぶようで、実はつながっているのは、カップルのあいだにはヒリヒリとした対立があるからだ。彼らには傷つけあってきた歴史があり、今もひどいけんかが繰り返され、関係は破綻(はたん)寸前になっている。

 本質にあるのは言葉が通じな…

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