「自分たちはもう通用しないのか」 蓮舫氏惨敗余波、幹部の責任論も

東京都知事選2024立憲共産

松井望美 伊沢健司

 東京都知事選の投開票から一夜明けた8日、3位に沈んだ蓮舫氏を支援した立憲民主党には動揺が広がった。次期衆院選に向け、党勢の立て直しが急務だが、政党の支援を受けない石丸伸二・広島県安芸高田市前市長に無党派層が流れたことへのショックは大きい。

 「もう自分たちは通用しないのではないか。昨夜はそう思った。既存の政党が嫌われているような気がした。私たち自身がどうアップデートできるかが問われている」。立憲の辻元清美代表代行は8日、JR有楽町駅前で記者団に語った。

 中堅議員が「立憲の実力が表れた結果。自民も下がってはいるが、立憲も上がっていない」と指摘するように、急務となっているのが無党派層への浸透だ。朝日新聞社の出口調査では、石丸氏が無党派層の36%の支持を得た一方、蓮舫氏は半分以下の16%にとどまる。

政策よりもSNS?

 東京選出の若手議員は、石丸氏について「蓮舫氏は若者政策を訴えたが、若い世代の票は具体的な若者政策を言っていない石丸氏に流れた」。政策ではなくSNSへの露出が、若年層に多い無党派の支持につながっているとの見方を示す。

 一方、ベテランの枝野幸男前代表は7日の兵庫県宝塚市での講演で「無党派といってもいろんな人がいる。目先の目新しさに振り回されない行動を取ることが、長い目でみれば無党派を捉える」と、愚直に政策を訴え続ける必要性を唱えた。

 悩ましいのは共産党との連携も同じだ。今回は共産が前面に出て支援したことで国民民主党や連合の反発を招き、中道から保守層へのアプローチもできなかったとの指摘がある。ベテラン議員は「共産との関係が悪い方に出た。立憲支持層とリベラル勢だけで浮動票は取れない」と話す。

「当然、代表選にも影響する」

 都知事選を主導した都連は、共産との関係見直しに否定的だ。都連の手塚仁雄幹事長は「共産の皆さんには感謝の思い以外、一切ない」と言い切る。連合関係者は「共産がいなければもっと票を減らしただろう。結局、立憲と共産の関係は何も変わらないのではないか」とぼやく。

 党重鎮は「共産の問題じゃない。まず国民民主との協力態勢を構築し、日本維新の会とも連携できるかどうかだ」と指摘。他の野党と連合も含めた連携がカギとなるとし、現執行部の対応を批判する。

 「これだけの惨敗。当然、代表選にも影響するだろう」(松井望美、伊沢健司)

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    米重克洋
    (JX通信社 代表取締役)
    2024年7月8日23時59分 投稿
    【視点】

    蓮舫氏の敗因は石丸氏の伸長の原因と裏表の関係にあると考えられる。 我々が投開票日1週間前に、都内2500人あまりの有権者を対象に独自に行ったインターネット情勢調査では、石丸氏の支持層は政治不信が強く、旧民主党政権への評価が低いという特徴を有していることが分かった。今は裏金問題に代表されるように、特に自民党に対する不信が有権者の間に渦巻いている。しかし、それ以前からある程度まとまった割合の有権者は旧民主党のながれを組む野党にも不信の目を向けており、今回はそうした性格の強い無党派層や第三極志向の有権者が一斉に石丸氏にながれた形跡がある。 こういった有権者の「信頼」に関わる問題は、記事中にあるような愚直な政策の訴えだけでは払拭できない。既に国内でも様々な先行研究で、日本の有権者は投票にあたって「政策」よりも「政党への信頼感」や「候補者のイメージ」に基づいて投票先を決めていることが明らかになっている。 以下は特に数値的根拠のない考えだが、選挙が「政策コンテスト」として機能するならば、都知事選の順位はもっと違うものになっていたと思う。行政組織やシンクタンクの支援もないのに、ある特定の分野ではかなり練度の高い政策を語っていた候補者もいた。だが、彼らはいずれも供託金没収回避ラインに達しなかった。 私は「愚直に政策を訴える」ことに逃げないこと、真の解決策に正面から向かっていくことが野党の復活に必要なのではないか、と思う。

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2024年7月9日10時11分 投稿
    【視点】

    もともと立憲と共産の基礎票だけでは、自公の基礎票に及ばない。だから「風」がないと首長選や小選挙区では勝てない。 石丸伸二氏の約166万と蓮舫氏の約128万の得票を足せば、小池氏の292万を上回る。前回は小池氏に「風」が乗っていて366万だったが、今回は(投票率の上昇もあるが)石丸氏に「風」が吹いたというべきなのだろう。 もともと小池氏は自民党の候補ではないから、「反自民」の訴えが有効な選挙になりうるかは不明だった(実際に小池氏は自民党の支持を表に出さなかった)。もちろん立憲としては都知事選を見送るという選択肢はなく、そうである以上は全力を尽くしたのは正しいが、もともと「風」が乘る可能性は高くなかったかもしれない。 「反自民」が争点化しにくいという環境下では、「反自民」よりも「反政党政治」の「風」が吹きやすい。これは過去の都市部の首長選でも時々起きた現象だ。それが今回も起きやすかったのだろう。それが石丸氏に「風」が吹き、蓮舫氏が「風」を捉えられなかった要因という説明も、(後知恵ではあるが)可能かもしれない。 「風」が吹かない状態での立憲の基礎票は、政党支持率にも間接的に表れているように、自公には及ばない。「風」のない条件下であれば基礎票だけなのだから、「共産がいなければもっと票を減らしただろう」という連合関係者のコメントは正しいと思う。 それでは、どうしたら「風」は吹くのか。それが政党関係者は知りたいところかもしれない。 しかし「風」は、狙って努力すれば吹くというものでもない。もちろん、狙って努力しないと吹かないことは確かである。しかし、狙って努力すれば必ず吹くのかといえば、そうではない。今回は石丸氏にしても、次回にまた吹くのかといえば、そういう保証はない。 ネットを使って政策コンテストをやれば「風」が吹くのか。私にはわからないが、おそらくそれだけでは、選挙で勝てるほどには吹かないと思う。政策マニアが集まって、SNSや集会を賑わせる程度には吹くかもしれない。しかしそれでは、首長選や小選挙区の選挙では勝てないと思う(地方議員選挙や比例区なら別だが)。それ以上の規模になるのは、今回の石丸氏がそうであるように、もっと異質な論理が働いた場合だろう。 ではどうすればいいのか、と立憲の関係者は考えるかもしれない。これには安直な答えはないと思う。もともと、基礎票が(選挙区にもよるが)自公と比較して半分前後しかないのが根本問題なのだから、即効性のある対策などない。 記事中には「共産との関係が悪い方に出た。立憲支持層とリベラル勢だけで浮動票は取れない」という議員のコメントがある。後者はそのとおりで、立憲と共産が組めば(必ず)浮動票がとれるのかといえば、それはないだろう。しかし共産を排除して、国民民主や連合と組めば(必ず)浮動票がとれるのかいえば、そうもいえないだろう。とくに、今回のように「反政党政治」の「風」が吹いた場合には。 「すぐに勝ちたい」「すぐに勝たないと党が持たない」という事情もあるかもしれない。しかしこのさい、即効性のある対策などないのだと割り切って、枝野氏のいう「目先の目新しさに振り回されない行動を取ることが、長い目でみれば無党派を捉える」という姿勢で基礎票を増やすことも大切と思う。 それですぐに選挙に勝てる保証があるのかといえば、それはないだろう。しかし、そんなにすぐに勝てるようなレベルの問題ではないのだ、という自覚も必要ではないか。

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東京都知事選挙2024

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