高齢者は若者の敵か? 0歳児選挙権とシルバー民主主義の虚実を問う
日本維新の会共同代表の吉村洋文・大阪府知事が、0歳児からの選挙権を党の公約に盛り込む方針を示した。少子高齢化と若者の低投票率が続くなかで、若い世代に政治的影響力を持たせる目的という。ただ、成人するまでは親が選挙権を代行するので、子どもが多い親ほど投票数が増え、1票の不平等を招くとの批判も巻き起こった。
こうした「子ども投票権」の議論の背景には、「シルバー民主主義」もあるようだ。今の政治は高齢者ばかり見ていて、その利益を代弁するものになっている――。世代間対立を前提とするこの種の「シルバー民主主義」言説は、果たして真実なのだろうか。若者や将来世代の声を政治に反映するにあたり、子ども投票権はその処方箋(せん)になり得るのか。
政治学者の吉田徹・同志社大教授と考えた。
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「子ども投票権」は理想論としてあり得る
――0歳児選挙権や子ども投票権の提案をどう見ますか?
非常に興味深い問題提起で、様々な視点から議論すべき点を含んでいます。
万人による政治参加という民主制の原則、つまり「みんなで話し合って決める」という前提からすれば、「みんな」の範囲が広いほど正統性は高まる。近代民主制の原則は「1人1票」ですが、日本をはじめ多くの民主国家では、上位階層や高額納税者などしか有権者と認められない制限選挙の時代が続き、その後、男子普通選挙、女性参政権の実現と、歴史的に見ると投票権は水平的に拡大してきました。
未成年への選挙権付与はもちろん現行憲法には抵触しますが、環境問題などを考えれば、今後は将来世代という垂直的な拡大を構想すべきで、未成年者やもっと若い子どもに選挙権や被選挙権を与えることは、理想論としては十分あり得ます。
――政治的知識や認知判断能力が未熟な子どもに投票権を与えてよいのか、という疑問や反論もありそうです。
判断能力に劣るという理由で子ども投票権を認めないなら、同様の理由で大人の参政権を剝奪(はくだつ)できることになります。能力を測る基準も恣意(しい)的になりかねず、公平性にも反します。だから年齢で機械的に区切るという誰もが納得できる基準には合理性があります。ただ、少なくとも、選挙権年齢を大幅に引き下げることを大いに議論すべきでしょう。
「代行」なら「1人1票」原則にも反しない
米国の人口統計学者ポール・ドメインが提唱した「ドメイン投票方式」や、吉村知事による今回の「0歳児投票権」は、親が選挙権を代理行使することを想定しています。これは実質上、親が複数票を持つものだとして反発を招きましたが、あくまで人数に応じた権利の代行ですから、必ずしも「1人1票」原則に反しているとは言えません。現行の後見人の制度などを見ても、権利の代行という考え自体がおかしいとも言えません。
ただし、今回の提案には大きな疑問点が二つあります。
――どのような点で?
まず、親が子の利益を最もよ…